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Untreue (Das zerbrochene Ringlein /In einem kühlen Grunde)    
 
不実(こわれた指輪/涼しい谷底で)  
    

詩: アイヒェンドルフ (Josef Karl Benedikt von Eichendorff,1788-1857) ドイツ
    Gedichte - 7. Romanzen  Das zerbrochene Ringlein

曲: グリュック (Friedrich Glück,1793-1840) ドイツ   歌詞言語: ドイツ語


In einem kühlen Grunde,
Da geht ein Mühlenrad,
Mein' Liebste ist verschwunden,
Die dort gewohnet hat.

Sie hat mir Treu versprochen,
Gab mir ein'n Ring dabei,
Sie hat die Treu gebrochen,
Mein Ringlein sprang entzwei.

Ich möcht' als Spielmann reisen
Weit in die Welt hinaus,
Und singen meine Weisen
Und gehn von Haus zu Haus.

Ich möcht' als Reiter fliegen
Wohl in die blut'ge Schlacht,
Und stille Feuer liegen
Im Feld bei dunkler Nacht.

Hör' ich das Mühlrad gehen,
Ich weiß nicht,was ich will,
Ich möcht' am liebsten sterben,
Da wär's auf einmal still.

涼しい谷底で
水車が回る
そこに住んでいた
僕の恋人はもういない

あの娘は誠を誓い
指輪をひとつ贈ってくれた
あの娘は誠を破り
小さな指輪はふたつに割れた

吟遊の楽師になって
遠い国に旅立ち
自分の詩を歌い
家から家へと巡ろうか

騎兵になって颯爽と
血生臭い戦場を駆け
暗夜の野原で
静かな炎の前に眠ろうか

あの水車の回る音がする
僕はどうしたらいいのだろう
死んでしまうのが一番だ
そうすりゃすぐに静かになる


ドイツ民謡として名高い曲ですが、アイヒェンドルフの詩に作曲されたれっきとした歌曲なので、正式には民衆の伝承による本来の「民謡”Volkslied”」と区別して「民謡調歌曲”Volkstümliches Lied”」と呼ばれるとのことです。

シューベルトの『冬の旅』の第7曲「流れの上で」の歌詞の中に出てくる「こわれた指輪”ein zerbrochner Ring”」という言葉の意味がはっきりわからないと書いたところ、Autyさんにこの曲をご教示いただいたのですが、ご覧のように歌詞がまるで『美しき水車小屋の乙女』と『冬の旅』をいっしょにしたようなのに加え、原詩の発表が1813年、曲が1814年と、まさにミュラーが『冬の旅』の実体験をしていた頃なのです。『指環の文化史』(浜本隆志著:白水uブックス)という興味深い本によれば、ドイツを含む古代ローマ帝国の文化圏では「こわれた指輪」は愛の不実の象徴とのことですが、この曲でもまさにそのように用いられています。

同書によれば我が国では奈良時代より明治時代まで指環文化が全く廃れており、あの鹿鳴館の頃に再輸入されたため、「指環」という言葉は明治時代、「指輪」は大正時代に作られた言葉なのだそうです。考えてみれば和服に指輪という取り合わせがあり得ない事からもわかりますが、それが指輪というものに対して日本人が、単なる装身具以上の象徴性を即座に感じ取れない理由なのかもしれません。

元々原詩は”Lied”とのみ題された無題詩で、グリュックは歌曲を「不実」と題しました。その後1826年に原詩が詩集に収録された折りに「こわれた指輪”Das zerbrochene Ringlein”」と改められましたが、この曲をその名で呼ぶことがあるのはそのためでしょうか。しかし現在では詩の第一行目の「すずしい谷間で(拙訳:涼しい谷底で)”In einem kühlen Grunde”で呼ばれることが多いようです。他に「嘆き”Die Klage”」と題しているCDもありますが、題名の異なる複数の楽譜が流通しているのかもしれません。

録音は合唱によるものが多いですが、聴いて楽しいのは芸達者な歌手の独唱でしょう。その点でプライ(エンジェル「ドイツ民謡集」)に優る者は考えられないくらいです。

( 2008.03.12 甲斐貴也 )


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