春の宵 |
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月もおぼろの春の宵 せせらぎ淡く光りつつ 散りつぎやまぬ山桜 月もおぼろの春の宵 風もほのかに春の宵 かすむかなたのはてなくも 散りつぎやまぬ山桜 風もほのかに春の宵 |
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NAXOSレーベルの邦人作曲家シリーズやその仕掛け人かと思われる片山杜秀氏のおかげで最近、戦前や戦後初頭に活躍した日本の作曲家にスポットライトが当てられるのは大変素晴らしいことです。最近リリースされてマニアの間で評価が高かったようなのがこの安部幸明。「日本のバルトーク」というキャッチフレーズがウケたからでしょうか。確かに彼の管弦楽作品、重厚な迫力にみちて面白いです(バルトークというよりは私はプロコフィエフを連想しましたが)。さてそんな彼ですが意外と多くの歌曲作品があります。その中には今なら「みんなのうた」にあたるNHKのラジオ歌謡として取り上げられた「かけす」なんて歌もありますが今回取り上げるのはこの曲。1941年頃といいますから太平洋戦争が始まらんとした頃ですね。彼の言葉によれば「始めは題名だけ同じな詩に作ったものであつたが、その詩はすこぶる官能的なものであつたので、当時レコードとするためには検閲が通りそうもないので、友人の加藤君に、大して意味のない漠然とした詩を作つてもらい、無事レコードにすることができた」とあります。確かにこのメロディ、「月はおぼろに東山」みたいなアンニュイな雰囲気にあふれていて、下手に恋の詩をつけるとドロドロのものになりそうで、そのまま出したら「この非常時に何事ぞ」と言われそうな味わいは確かにします。
作詞の加藤泰三(1911-1944)は気鋭の彫刻家だったのだそうですが、出征してニューギニアで戦死します。私も知らなかったのですが、現在でも山の画文集「霧の山稜」で山を愛する人には比較的良く知られているのだそうです。
( 2007.12.16 藤井宏行 )