山のあなたに |
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山のあなたの空遠く 「幸」住むと人のいふ ああ、われひとと尋めゆきて 涙さしぐみ、かへりきぬ 山のあなたになほ遠く 「幸」住むと人のいふ |
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この人は私が小学校の頃は音楽の教科書に日本の著名な作曲家のひとりということで名前が載っていたように記憶しているのですが現在はどうなのでしょうか。没後40余年を経てだいぶ忘却の彼方に行ってしまわれた人のようにも思えてなりません。
それでも代表作としてはシーズンになれば子供たちに必ず歌われる「たなばたさま」のような童謡もあり、決してその作品も含めて完全に忘れ去られたわけではありません。“下總皖一童謡音楽賞”というようなものもあるようですし。
今回取り上げようと思いましたのは、明治の碩学、上田敏の手になる訳詩集「海潮音」の中でもひときわ有名な(昔はそうでしたが今はどうなのでしょうか)カール・ブッセの「山のあなた」に付けた曲。
この一昔前までは「山のあな、あな、あな」と三遊亭圓歌の落語のネタにまでなっていた有名な詩が、よもやこの人の手によって歌曲になっていたとは思いませんでした。しかも見事なくらい日本民謡調のメロディになっているのがまた興味深いところ。音になっているものは見つけることはできませんでしたが、昭和31年に出版された音楽の友社の世界音楽全集の「日本歌曲集2」に楽譜を見つけることができました。
なんといいますか、山田耕筰の「かやの木山の」みたいなほんのりとユーモアを漂わせる歌にしているところが、この憧れを満たされずに悲しみに浸っているような詩には少々違和感がなくもないですけれども、彼のシンプルでわかりやすいメロディはやはり魅力的です。この曲もまた子供のために書かれたもののようです。
( 2007.12.16 藤井宏行 )