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Istina   Op.145-1  
  Sjuita na slova Mikelandzhelo Buonarroti
真実  
     ミケランジェロの詩による組曲

詩: ミケランジェロ (Michelangelo di Lodovico Buonarroti Simoni,1475-1564) イタリア
    Rime 6 Signor,se vero è alcun proverbio antico

曲: ショスタコーヴィチ (Dimitry Shostakovich,1906-1975) ロシア   歌詞言語: イタリア語


Signor,se vero è alcun proverbio antico,
questo è ben quel,che chi può,mai non vuole.
Tu hai creduto a favole e parole,
e premiato chi èl del ver nimico.

Io sono,e fui già tuo buon servo antico;
a te son dato come i raggi al sole;
e del mio tempo non t'incresce o duole,
e men ti piaccio se più m'affatico.

Già sperai ascender per la tuo altezza;
e 'l giusto peso,e la potente spada
fassi al bisogno,e non la voce d'ecco.

Ma 'l cielo è quel ch'ogni virtù disprezza
locarla al mondo,se vuol ch'altri vada
a prender frutto d'un arbor ch'è secco.

主よ、もし古いことわざに真理があるなら
それはまさにこういうことなのですね「できる者はそれをしたがらない」
あなたはたわ言や甘言をお信じになり
真理の敵に報いられたのです

わたしは今も、そしてずっと昔からあなたの忠実な召使でした
あなたと共にありました まるで光が太陽と共にあるかのように
私は限りない時間を費やし、それでもあなたは満足されない
一所懸命努めるほどに あなたの不興を買うのです

わたしはあなたの高みに登りたいと望み
正義の裁きと強力な剣を
ずっと求めてきました、こんなむなしいこだまではなく

だが天はすべての美徳を馬鹿にして
このような世だけを遣わされたのです
枯れた木から果実を取れとばかりに

ミケランジェロという芸術家もまた、時代や政治に翻弄されながら自らの芸術のために生きた人でした。彼の伝記などを読むとショスタコーヴィチの生涯とあまりによく似た迫害や圧迫、そしてそれにも負けずに創作に邁進している姿があるのに驚かされてしまいます。それだけに1974年、ミケランジェロ生誕500年を記念するためにショスタコーヴィチがこれらの詩を取り上げて壮大な歌曲集にしようと思ったのもある意味非常に納得できるような気がします。

ミケランジェロ・ブオナロッティ(1475〜1564)はレオナルド・ダ・ヴィンチ同様、ルネッサンスの巨人として絵画や彫刻だけでなく、このように詩作においても才能を発揮した人でありました。生涯に300篇以上のソネットをはじめとしたたくさんの詩を書いているのだそうです。確かにイタリア文学者のような方に言わせると詩としては形が崩れたものが多く、決して大傑作とは言えないという解釈もあるようですし、日本では言葉の壁もあってかほとんど省みられることもないようなのですけれども、彼のプライベートな心のありようがここには率直にぶつけられているように私には読めてたいへんに興味深いものでした。ちょうどショスタコーヴィチも室内楽曲や歌曲では交響作品と違って彼のプライベートな心情をかなり率直に語らせているようなところがありますので、その意味でこれらの詩に付けられたこの歌曲集もまた、彼の心の叫びを代弁しているかのような興味深いものとなりました。

ショスタコーヴィチが曲を付けたのは、アブラーム・エフロースによりロシア語に翻訳されたテキストですが、これは著作権がまだ切れていないのではないかと思いますし、ロシア語からの翻訳自身、私はすっかり自信をなくしてしまっていることもあって、このような難解な詩ではとても手が出せそうにありません。またそちらからの翻訳は楽譜やCD対訳などで現在でも容易に手に入るでしょうから、極端に解釈が異なる場合に言及するのみにとどめ、ここではミケランジェロの原典より訳したものを載せようと思います。フィッシャー=ディースカウが作曲家のアリベルト・ライマンのピアノ伴奏で入れたテルデック盤ではこのイタリア語で歌われていることもありますし、決して場違いということもないでしょう。
もっとも500年以上も前のイタリア語、辞書に単語が見当たらなかったりさっぱり意味が取れなかったところもそこかしこにありますので、時にロシア語詩で使われた訳語を拝借したところもございます。ご了承ください。
なお、ミケランジェロの原詩にはタイトルはなく、各曲に付けられたタイトルは作曲者によるものということですので、タイトルのところだけはロシア語(をローマ字化したもの)です。
さて第1曲目、いきなり怒っています。神様に対して腹を立てているように見えますが、実のところは神様の名のもとに権力を欲しいままにする当時のキリスト教界のお偉いさんたちに対する怒りですね。彼の最大のパトロンでもあったローマ法王ユリウス2世に向けて書かれたもののようです。
淡々と語るモノローグは深い物思いに耽るかのよう。最初の曲からたいへん重たいです。この詩は1509年の作ということですのでミケランジェロは30代なかばの壮年期ですね。まだ理想に燃えている意気込みがひしひしと感じられます。淡々と歌われているのですが、背後には煮えたぎるものが感じられて非常に熱いです。最後は消え入るように終わるのですけれども。

( 2007.12.16 藤井宏行 )


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