Chanson d'automne Chansons grise |
秋の歌 灰色の歌 |
Les sanglots longs Des violons De l'automne Blessent mon coeur D'une langueur Monotone. Tout suffocant Et bleme, quand Sonne l'heure Je me souviens Des jours anciens, Et je pleure... Et je m'en vais Au vent mauvais Qui m'emporte De ca, de la, Pareil a la Feuille morte... |
悲しくすすり泣く ヴァイオリン 秋の季節の 私の心は痛む やるせなき 退屈さに 息がとまり 青ざめる 時を告げる音に 私は思い出す 過ぎ去りし昔を そして私は泣く... そして私は旅立つ 激しい風の中 風は私を漂わせる そこへ、またここへと それはまるで 枯葉のように... |
「山のあなた」(詩・ブッセ/曲・ベルク)、「春の朝」(詩・ブラウニング/曲・ビーチ)に続く明治時代の名訳詞集「海潮音」に選ばれた詩からの第三弾です。
感傷的な秋の気分をやるせなくすすり泣くヴァイオリンに乗せて歌うこの詩、歌曲にはぴったりの題材だな、と思って探していたらやはりありました。
しかもフランス歌曲の小さな宝石とも言えるレイナルド・アーンの曲です。有名なシャンソン「枯葉」と寸分違わぬ世界がそこには展開しています。彼の曲にしてはメロディーの魅力が今ひとつといえなくもありませんが、ロシア民謡「黒い瞳」を思わせるようなゆったりした短調の旋律が、シャンソンとなってヴェルレーヌの世界を描き出すのですから贅沢をいってはいけません。
マディ・メスプレの透明なソプラノで、他の溜め息の出るような美しいアーンの歌曲と共に堪能するのは、秋の夜長のひとつの楽しみではないでしょうか。(EMI)
この詩には他にもなぜか、ディーリアスやブリテンといったイギリスの作曲家が曲をつけています。ディーリアスのものは聴いたことがありますが、残念ながら印象に残っておりません。
上田敏の訳も著作権は切れているので載せてみましょう。
落葉 ポオル・ヴェルレエヌ
秋の日の
ヴィオロンの
ためいきの
身にしみて
ひたぶるに
うら悲し
鐘のおとに
胸ふたぎ
色かへて
涙ぐむ
過ぎし日の
おもひでや
げにわれは
うらぶれて
こゝかしこ
さだめなく
とび散らふ
落葉かな。
5・5・5・5の音節のリズムが実に見事です。海潮音の解説で「仏蘭西の詩はユウゴオに絵画の色を帯び、ルコント・ドゥ・リイルに彫塑の形を具えヴェルレエヌに至りて音楽の声を伝え...」とありますが、訳詩も見事にその音楽の声を表しているように思います。橋本国彦にこの上田敏訳のこの訳詩に曲を付けたものがあるそうなので、機会があれば是非聴いてみたいものです。
( 2002.10.05 藤井宏行 )