Es war mal eine Wanze Op.66-9 TrV 236 Krämerspiegel |
昔一匹の毛虱が 商人の鑑 |
Es war mal eine Wanze, Die ging,die ging auf's Ganze. Gab einen Duft,der nie verflog, Und sog und sog. Doch Musici, Die packten sie Und knackten sie. Und als die Wanze starb und stank, Ein Lobgesang zum Himmel drang. |
昔 一匹のノミがおりましてん のさばります のさばります 何処んでも ちいとでもエエ香りがしようもんなら喰らいついてきてなあ そいでまた 吸う 吸う けど音楽家たちがなあ そいつをつまみ出して 叩き潰したんですわ で ノミめが死におって匂うたそんときに 喜びの歌声は天まで届いたそうですわ |
ほとんどの邦訳では「南京虫」という言葉で訳されているようですが、今や衛生状態も良くなった日本では南京虫と言われても何のことやら分からない人も多いでしょう。しかもこれでは中国の同名の都市に住んでおられる方に取っては不快感を持たれる呼び名のような気もしましたので、ここではノミ、としました。厳密にはドイツ語でWanzeは毛ジラミのことを指しているようですが(ノミはFloh)、この歌詞をご覧になればお分かりの通り、ゲーテのファウストの「ノミの歌」のパロディであることは一目瞭然でしょう。ゲーテの詩でも最後に「おれたちは叩き潰せる、いつでも好きなときにね」とありましたが、ここでもそんな感じで叩き潰されているのは、ゲーテのノミの歌での奸臣に対し、こちらは音楽家たちを食いものにする商人です。
ドイツ語のとげとげしい響きを強調しながら歌は終始おどけて小馬鹿にするようなフレーズが続きますが、「喜びの歌声」のところは幸福感あふれるメロディとなります。
( 2007.12.01 藤井宏行 )