Es war einmal ein Bock Op.66-1 TrV 236 Krämerspiegel |
昔 一匹の牡山羊が 商人の鑑 |
Es war einmal ein Bock,ein Bock, Der fraß an einem Blumenstock,der Bock. Musik,du lichte Blumenzier, Wie schmatzt der Bock voll Schmausegier! Er möchte gar vermessen Die Blüten alle,alle fressen. Du liebe Blüte wehre dich, Du Bock und Gierschlung,schere dich! Schere dich,du Bock! |
昔なあ 一匹の牡山羊がおましたねん、牡山羊 で 鉢植えの花に食らい付きよったんですわ、その牡山羊 音楽はん あんた輝く可愛い花でっからなあ 牡山羊は えろう食い倒れで グルメときよります! やっこはん ずうずうしくも思ってはんのや 花ならみんな 喰ろうてまおうとなあ せやから可愛いお花はん 気い付けなはれ なあ大食らいの牡山羊め ええ加減にせえや ええ加減にせえ 牡山羊 |
リヒャルト・シュトラウスは1918年、とある楽譜出版社より曲を書いて提供するという契約の不履行で訴えられます。その背後には彼が関わっていた音楽家たちの権利団体と、出版社が支配する著作権管理団体との対立があったようなのですが、やはり「ビジネス」では一枚上手の業界団体を背後にしたその出版社に勝てるはずもなく、彼は期限までに曲を書かなければならなくなりました。そこで管弦楽曲でも「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」や「英雄の生涯」などカリカチュア作品をいくつも書いているシュトラウスの茶目っ気が発揮されます。彼は知り合いの劇評論家のアルフレッド・ケルに、一見寓話のように見せながらその実は敵対相手の楽譜出版社やその経営者たちをメタメタに罵倒している歌詞を書いてもらい、それを元にOp.66の歌曲集「商人の鑑」を作曲してくだんの出版社に提出したのでした。
この第1曲目もさりげなく牡山羊の話になっていますが、この牡山羊(Bock)というのは係争相手の出版社の名前Bote und Bock社より。このBockを繰り返し繰り返しシツコク連呼しながら罵倒します。「音楽」のことをこの牡山羊が貪り喰らう花に喩え、その貪欲さを揶揄しているのです。
音楽が実にシュトラウスらしい耽美的なメロディにあふれているので音だけ聴いている分には気が付きにくいですけれども...
もちろん当の罵倒されている出版社がそれに気がつかないわけはなく、この歌曲集は受け取りを拒否されて彼は結局別の歌曲集Op.67を書かなければならなくなりました。しかしながらこの歌曲集も歌の中で肴にならなかった別の出版社からメデタク出版され、こうして後の世にも耳にすることができることになったのです。
「商人の鑑」と言えばまあ大阪やろ、ちゅうことで(なんちゅう貧困な発想じゃ!)、大阪弁訳にチャレンジしてみました。ただ私は大阪ネイティブではありませんので不自然な言い回しになっているところも多々あるかと思います。ご指摘下されば幸いです。ついでに言えばタイトルも東京流の「しょうにんのかがみ」ではなくて「あきんどのかがみ」と読んで頂ければ嬉しいです。関西圏で真面目に商売されているほとんどの商人の方々には大変失礼なような気もしますが...
彼自身のことを描いた交響詩「英雄の生涯」で行っていたように、この詩と曲にも彼の作品が随所に織り込まれており、それらを見つけ出すのも楽しいです。
( 2007.12.01 藤井宏行 )