同棲同類 智恵子抄 |
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――私は口をむすんで粘土をいぢる ――智恵子はトンカラ機(はた)を織る ――鼠は床にこぼれた南京豆を取りに来る ――それを雀が横取りする ――カマキリは物干し綱に鎌を研ぐ ――蠅とり蜘蛛は三段飛 ――かけた手拭はひとりでじやれる ――郵便物ががちやりと落ちる ――時計はひるね ――鉄瓶もひるね ――芙蓉の葉は舌を垂らす ――づしんと小さな地震 油蝉を伴奏にして この一群の同棲同類の頭の上から 子午線上の大火団がまつさかさまにがつと照らす |
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蒔田の書いた歌曲集「智恵子抄」、清水脩や別宮貞雄の歌曲集で取り上げていないのがこの詩です。残念ながらまだ音となって聴けたことはないのですが、智恵子が狂気に浸食されて行く、原詩集でも最も重たい23〜30番目の詩の中で唯一欠けていた詩がこれでしたので取り上げさせて頂きました。夏のアブラゼミのグワングワンいうような鳴き声が鮮烈な描写になっています。
( 2021.09.27 藤井宏行 )