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Apparition   L 53  
 
まぼろし  
    

詩: マラルメ (Stéphane Mallarmé,1842-1898) フランス
    Premiers poèmes  Apparition (1863)

曲: ドビュッシー (Claude Achille Debussy,1862-1918) フランス   歌詞言語: フランス語


La lune s'attristait. Des séraphins en pleurs
Rêvant,l'archet aux doigts,dans le calme des fleurs
Vaporeuses,tiraient de mourantes violes
De blancs sanglots glissant sur l'azur des corolles.

C'était le jour béni de ton premier baiser;
Ma songerie aimant à me martyriser
S'enivrait savamment du parfum de tristesse
Que même sans regret et sans déboire laisse

La cueillaison d'un rêve au coeur qui l'a cueilli.
J'errais donc,l'oeil rivé sur le pavé vieilli,
Quand avec du soleil aux cheveux,dans la rue
Et dans le soir,tu m'es en riant apparue.

Et j'ai cru voir la fée au chapeau de clarté
Qui jadis sur mes beaux sommeils d'enfant gâté
Passait,laissant toujours de ses mains mal fermées
Neiger de blancs bouquets d'étoiles parfumées.

月は悲しげだ。天使たちは涙にくれ
夢みつつ、手には弓、花たちの静けさの中
霞んでいく、消え入るようなヴィオールの調べ
白いすすり泣きが滑っていく 花冠の青さの上を。

それは初めてのあなたからのくちづけで祝福された日
私を苦しめるばかりのこんな夢想は
悲しみの香りにもう酔いつぶれていた
だがその香りには、後悔も失望もなかった

夢を摘み取ってもそれは摘み取った者の心に残る
それで私はさまよった、目は古い石畳を見つめていた
そのとき髪に日を浴び、この街角に
この夕暮れの中、笑いながらあなたは現れたのだ

私は見たと思った、光の帽子をかぶった妖精を
その昔、甘えてばかりいた子供の頃の幸せな眠りの中で
妖精は通り過ぎたものだ、いつも白い花束から
香りの星をその手で雪のように降らせながら


タイトルのApparation(Appearance)というのはニュアンスの広い言葉だからでしょうか、「出現」や「幻」、「あらわれ」etc.と色々な訳が当てられています。確かに詩は細かな部分の解釈は非常に難しいのですが、全体で言っている内容はそれほどわけが分からない話でもないと思います。
と、フランス語初心者レベルの私が大それた発言をしてしまいますが、他の難解で手も足も出ないマラルメの詩に比べるとかなりイメージしやすい内容であるのは確かだと思います。そしてドビュッシーがこの詩に曲をつけたのは1884年と言いますからまだ彼のキャリアでも初期の頃。非常に分かりやすい美しいメロディでこの恋の歌を彩ってくれています。また作曲当時は詩人のマラルメもほとんど無名だったと言われていますが、この詩人にインスピレーションが沸くところがさすがドビュッシー、晩年の傑作歌曲集「マラルメの3つの詩」に繋がるところがあるのかも知れません。恋人の主題とも言えるたいへんロマンティックなメロディで激しく盛り上がっていくところなどはドビュッシーの歌曲の中でも1・2を争う耽美さ。実はこの曲、美しいソプラノの声の持ち主であったといわれる彼の若き日の不倫相手、ヴィニエ夫人に歌われることをイメージして書かれたのだと言われています。その意味で透明感のあるハイソプラノが力一杯歌うと痺れがくるくらい素敵な歌。ドビュッシーなんてモヤモヤっとして掴み所がないと思っている人にぜひ聴いて知って欲しいです。ドビュッシーもこんなに熱い音楽を書くのだということを。

( 2007.11.17 藤井宏行 )


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