岩手病院 |
|
血のいろにゆがめる月は 今宵また桜をのぼり 患者たち廊のはづれに 凶事の兆を云へり 木がくれのあやなき闇を 声細くいゆきかへりて 熱植ゑし黒き綿羊 その姿いともあやしき 月しろは鉛糖のごと 柱列の廊をわたれば コカインの白きかをりを いそがしくよぎる医師あり しかもあれ春のをとめら なべて且つ耐へほゝゑみて 水銀の目盛を数へ 玲瓏の氷を割きぬ |
|
( 2021.06.14 藤井宏行 )