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By Strauss    
 
シュトラウスの曲でね  
    

詩: ガーシュウイン,アイラ (Ira Gershwin,1896-1983) アメリカ
      

曲: ガーシュウイン (George Gershwin,1898-1937) アメリカ   歌詞言語: 英語


詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください
あたしだいっ嫌いよブロードウェイ
誰それ?アービン・バーリンって
あんなのは全部カーンもコール・ポーターも
ガーシュインも下品だわ

そんなの聴いてちゃ不良になっちゃうの
酒場のダンスじゃイヤ
もっとお上品なワルツを聴きたいわ
バンドの人にお願いしましょ
曲はシュトラウスのをネ、って


そうよ ほら いい感じ

あたし大好き
この歌が
ステキなメロディ
バイ シュトラウス
笑い 歌い 世界を紡ぐ
お洒落な調べ

流れるドナウ
オペレッタ
お酒とワルツ
バイ シュトラウス
今宵 響く シュトラウスは最高!
踊りましょうズン・チャッ・チャッ ララ!
ステキなワルツ バイ シュトラウス!

(原詞を尊重した歌える歌詞の創作ですが、著作権侵害と判断されるようでしたらご指摘ください。削除いたします)

1936年のミュージカルレビュー“The Show is on(ショウは上演中)”はヴァーノン・デュークを中心にして、アーサー・シュワルツやホーギー・カーマイケル、リチャード・ロジャースにハロルド・アーレンといった当時のアメリカン・ポピュラー界の錚々たる人たちの曲を集めたショーであったようですが、そこに1曲だけ入っていたアイラ・ガーシュイン作詞・ジョージ・ガーシュイン作曲の黄金コンビが手がけたナンバーはなぜかとっても洒落たウイーン風のワルツ。ヨハン・シュトラウス作品のフレーズをさりげなく折り込みながらとてもユーモラスに歌います。
「'S Wonderful」だとか「I got Rhythm」みたいにSwingyな曲ではないのでジャズヴォーカルの人にはあまり取り上げられないからでしょうか、ガーシュウィンの作品の中では知られざる曲みたいになっていますが、クラシック系の歌手の方がもしガーシュウィンを取り上げようとするのであれば真っ先に取り上げても良い曲だと思います。フランツ・ペーターさんのブログTaubepostではソプラノのエリー・アメリンクが来日公演でも取り上げていたとありましたがこれはさすが彼女の見識。エリック・サティのシャンソンなんかで絶妙の歌を聴かせてくれたアメリンクの声と技ならこれはきっといけそうです。下手な歌手が「I got Rhythm」なんかをノリの悪いリズムと妙なヴェルカントでやられると私は虫唾が走るのですが、この曲なんかはガーシュウィンの持つスウィング感にウインナオペレッタのパロディ風の技巧的なところを微妙に溶け込ませているので、歌の巧いソプラノ歌手がやると実にいい感じになりそうなのです。特にシュトラウスのオペレッタのパロディでありながらなおガーシュウィンの個性が滲み出ているところが面白いところ。

バーバラ・ヘンドリックスあたりが歌ってくれていればさぞ素敵だったろうにな、と思うのですが彼女がラベック姉妹のピアノ伴奏で入れたガーシュウィンソング集には収録されておらず、現在日本でこの曲を容易に聴ける録音といえばキリ・テ・カナワの歌ったものくらいでしょうか。ただ私は個人的に彼女のはガーシュウィンのスウィング感を完全に勘違いしている歌い方のように思えて、この曲に限らずちょっと生理的に受け付けませんでした。他にもサラ・ウォーカーやイヴォンヌ・ケニーといったクラシック畑の人の歌は何とも生真面目すぎてまだこれは、というしゃれた歌唱には出会っておりません。

中でミュージカルとクラシックとのクロスオーバーとして絶妙の歌を聴かせてくれたのは、「マイ・フェア・レディ」や「ウエストサイド・ストーリー」の映画で主演女優たちの歌の影武者として活躍したソプラノのマーニ・ニクソンが歌ったこの歌。最初からシュトラウスのワルツ「春の声」をもじったと思われるコロラトゥーラのヴォカリーズで入ってくるオリジナルにない荒業が素敵ですし、ワルツのスウィング感も申し分ありません。そしてクライマックスにはピアノの伴奏にシュトラウスはシュトラウスでも、リヒャルト・シュトラウスの楽劇「バラの騎士」のワルツのフレーズをさりげなく挿入しているのがまたイイんですね。彼女のガーシュウィン・ソングブック、クラシカル系の歌声としては指折りの魅力的な録音なのではないかと思います。この曲以外でもそこかしこに散りばめられた遊びがあんまり鼻につかずにたいへん楽しめました。

ジャズヴォーカルではほとんど取り上げる人はいない、と書きましたがそんな中でとてもいい味を出してくれているのがエラ・フィッツジェラルド、この曲のもともとの雰囲気であるコロラトゥーラソプラノとは程遠い声の彼女ですがそれを補って余りある芸の力があり、これもとても良かったです。あとはちょっと固さはありますが下手なクラシック歌手よりは圧倒的にスウィングしているジャズヴォーカリストの前田祐希さんのも楽しく聴けました。

邦題では「シュトラウス賛歌」となっているかあるいは多くのジャズ・スタンダードがそうであるように原題をそのままカタカナ書きにして「バイ・シュトラウス」としています。私はどちらも面白くないので「シュトラウスの曲でね」としてみました。
それから歌詞がとてもこれ、いいのですね。最初のヴァースのところなんかとりわけ小気味よく笑えます。そこでこれも大意が崩れないように原詞を尊重しながら歌える日本語詞に挑戦してみることにしました。翻訳権に引っかかって怒られそうですが、これくらい創作が入って原詞と違っていればあまりうるさいことは言われないものと願っています。また残念ながら原詞は載せられませんがこれは検索頂ければ英語のサイトで容易に見つけられるかと思います。

最初にミュージカルの巨匠たちが散々にこき下ろされています。ほんとうは「くたばっちまえ、金は払わんぜ」みたいなニュアンスなのですがうまく字数が合うように収められませんでしたし、あまり直訳だと叱られそうなのでこんな感じで。解説するまでもないかと思いますがアーヴィン・バーリンは「アニーよ銃を取れ」などの、ジェローム・カーンは「ショウ・ボート」、そしてコール・ポーターは「キス・ミー・ケイト」などの傑作ミュージカルを世に出した人たち。そして最後に自分自身が出てくるところもいいですね。原詞ではここは、“Gershwin keeps pounding on tin”となっています。うまく意味はとれなかったのですが街頭で空き缶を叩きながら乞食でもしているわ、って感じでしょうか。
その次の“How can I be civil when hearing that drivel?”っていうのも面白い言い回しです。直訳すると「そんなクズ音楽聴いててどうしてあか抜けることができるの?」といった感じでしょうか。

そしてワルツの主部に入るところ、oom-pa-pah(ウン・パッ・パ)だとかha-cha-cha(ハ・チャッ・チャッ)などの3拍子のリズムも口ずさみながらシュトラウスの音楽を褒め称えます。こんなところは邦題の「シュトラウス讃歌」というのもあながち的外れではないでしょうか。
詞の中でも「美しき青きドナウ」にオペレッタ「こうもり」(ここは私の詞でどうしようか迷ったのですが、「こうもり」ではあまり詞が美しく響かないし「シュトラウス」とausで韻を踏むために使われた原題「フレーデルマウス」では唐突で何だかわからないし、で「オペレッタ」にしました)、そして「酒・女・歌」といったシュトラウス作品がメロディだけでなく歌詞にも織り込まれています。そして1語だけドイツ語のheraus!(踏み出せ!)が次の行のStrauss!と韻を踏むために使われていますが、ここも突如ドイツ語では何だか分からないのので「ララ!」とごまかしています。
私の詞では「シュトラウスは最高」の部分に当たる“by Strauss is the thing”っていう言い回しも面白いな、と思いました。詞と曲の美しさを楽しむのもさることながらけっこうな英語の勉強となったのでした。

そういえばこの曲、映画「パリのアメリカ人」の中でも挿入歌として取り上げられています。ジーン・ケリーたちが実に楽しげに歌っているのが観られます。1950年の映画ですので、書店などで500円で売られていますから一番入手が容易でしょうか。この曲だけでなくガーシュウィンの素敵なナンバーが次々と聴けてとても楽しい作品。こちらで楽しむのも悪くないですね。

( 2007.07.07 藤井宏行 )


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