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菅公の歌    
 
 
    

詩: 中村秋香 (Nakamura Akika,1841-1910) 日本
      

曲: 小山作之助 (Koyama Sakunosuke,1863-1927) 日本   歌詞言語: 日本語


梅が香清く 月白き
菅原院の 春の夜に
月の耀(ひかり)は 雪の如
梅花は星に 似たりてふ

言葉の花は 萬世の
行末かけて いや廣く
匂ふ色香を うらわかき
二葉の露に 洩しけり

生れながらの 聡明は
一つをきゝて 十を知り
文事に武事に おのづから
道の蘊奥(おくか)を 極めつゝ

書(ふみ)よむ家に 生立ちて
弓とるわざは 本末も
わかじと思ひ かげらふの
たゞ一矢だに あだ矢なく

朗詠集に 選まれし
春を送るの 七絶は
一時(とき)のまに 十題を
賜ひし中の 作とかや

月の桂の 枝折りて
吹おこりたる 家の風
しるし嬉しき 位山
麓に生ふる 山藍の

藍よりいでゝ 藍よりも
まさりまさりて いつしかと
匂ふ袂の 紫は
若木の藤より 色ことに

誉は日にけに いや高く
主上は弟子と 宣せられ
渤海大使は 東海の
白楽天とぞ たゞへたる

朱雀の行幸に かけまくも
畏き御前に 召させられ
仰せ玉ひし 密議(ひめごと)は
賜ひし御題の それならで

芽ぐむヤナギの いと疾くも
世に洩れ出でゝ 裏おもて
巧に織りし 濡衣は
此彼が手に 縫はれつゝ

重ねて匂ふ 紫の
袖ひるがへし 吹おこる
左遷の宣示の はやち風
こはそも夢か 幻か

かけて頼みし しがらみも
思はぬ水脈に せかれつゝ
底の藻屑と いたづらに
流れ行く身の うきせ川

春な忘れそ 東風吹かば
匂ひおこせと 梅の花
ながめすてゝも ゆくゆくと
顧みらるゝ 我宿の

梢もやがて 隠ろひて
遠くもきつる 旅衣
日もゆふぐれの 風さえて
心細くも ひゞく鐘

夢も砕けて 夜もすがら
歎き明石の 浪枕
なに今更に 騒ぐべき
一榮一落 是春秋

かはるは時の ならひぞと
驛(うまや)の長に 諭しても
罪なくて見る 苫の月
浦見の末ぞ 限りなき

家を離れて 三四月
涙は下る 百千行
萬事は夢と 悟りても
都の空を ながむれば

ありしまゝなる 月の影
去年今夜の 菊の宴
恩賜の御衣は 今も尚
香さへさながら なるものを

照る日の光 かきくれて
あやめもわかぬ 天が下
着てし濡衣 ひるまなみ
あはれさながら 朽ちにけり

天を動かし 地を揺る
清涼殿の 霹靂(はたゝがみ)
都の内外 おしなべて
おのゝき怖じぬ ものもなし

神の怒は 世の怒
さばかり雲井に はびこりて
照らす日影を 掩へりし
雲はみるみる 消え失せて

朝日にかゞやく 筑紫潟
昔にかへる 浦波に
星の位の 上もなき
光はやがて きらめきて

奇異(くし)く霊妙(あや)しき 御霊をば
東に西に 南(なむかた)に
北野の神を あがめつゝ
あら人神と 仰ぎつゝ

文の林を 分くるにも
硯の海に あさるにも
主宰く神と 称えつゝ
斎き畏み 尊みて

千年(ちとせ)の後の 今も猶
さやかに道を 照すなり
二葉よりして かぐはしく
星にまがひし 其花は



( 2021.01.24 藤井宏行 )


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