報償 |
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わたしの歌ふことは わたしのためにほかならぬ わたしの見ることは わたしの歓びにほかならぬ わたしの夢みることは わたし以外のものの幸福をつくる 尊い糧にならうとは思はぬ− 雨にうたれた薔薇が 咲き出た誇りを傷かれた その不幸を雨に訴へたとて 砕かれた花片は還らぬ わたしの歌ふための償ひは わたしがするよりほかにない わたしの獲得する歓びと わたしの失ふ悲みとは わたしが生み また葬るのだ わたしのこの世にもとめる報償は どこまでも與へることよりほかにない わたしはみづからの愛人となり またみづからの敵となり わたしの播く種をば みづからに刈り入れる わたしの酒はみづからを酔はし 瞬時に消える陶酔のなかに 罪と善行とを一つにもつ |
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( 2021.01.17 藤井宏行 )