ほのかにひとつ |
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罌粟(けし)ひらく、ほのかにひとつ、 また、ひとつ…… やはらかき麦生(むぎふ)のなかに、 軟風(なよかぜ)のゆらゆるそのに。 薄き日の暮るとしもなく、 月しろの顫(ふる)ふゆめぢを、 縺(もつ)れ入るピアノの吐息 ゆふぐれになぞも泣かるる。 さあれ、またほのに生(あ)れゆく 色あかきなやみのほめき。 やはらかき麦生の靄に、 軟風のゆらゆる胸に、 罌粟ひらく、ほのかにひとつ、 また、ひとつ…… |
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中田はほんとうに多彩な詩人に曲をつけましたが、こと歌曲に関してはこの白秋の詩につけたのは非常に少なく、晩年に書かれたこの曲のみではないかと思われます。それでもこの作品、澄み切った平易なメロディで今でもよく歌われます。
( 2020.12.06 藤井宏行 )