緑色の笛 朔太郎の四つの詩 |
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この黄昏の野原のなかを 耳のながい象たちがぞろりぞろりと歩いてゐる 黄色い夕月が風にゆらいで あちこちに帽子のやうな草つぱがひらひらする。 さびしいですか お孃さん! ここに小さな笛があつて その音色は澄んだ緑です やさしく歌口をお吹きなさい とうめいなる空にふるへて あなたの蜃氣樓をよびよせなさい 思慕のはるかな海の方から ひとつの幻像がしだいにちかづいてくるやうだ それはくびのない猫のやうで 墓場の草影にふらふらする いつそこんな悲しい暮景の中で 私は死んでしまひたいのです。お孃さん! |
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( 2020.09.20 藤井宏行 )