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Who has seen the wind?  
    

詩: ロセッティ,クリスティーナ (Christina Georgina Rossetti,1830-1894) イギリス
    Sing-song: a nursery rhyme book  Who has seen the wind?

曲: 草川信 (Kusakawa Shin,1893-1948) 日本   歌詞言語: 日本語


Who has seen the wind?
Neither I nor you:
But when the leaves hang trembling,
The wind is passing thro’.

Who has seen the wind?
Neither I nor you:
But when the trees bow down their heads,
The wind is passing by.

風を見たことがあるのは誰?
それは私でもあなたでもない
だけど木の葉が震えるときには
風が通り抜けている

風を見たことがあるのは誰?
それは私でもあなたでもない
だけど木の枝がお辞儀するときには
風が通り過ぎている

(実際は西条八十による訳詞で歌われますが、ここでは原詩の藤井訳を掲載致します)


先ごろ文化庁が、「親子で歌い継ごう日本の歌100選」とかいうのの集計結果報告をやっていたのをご記憶の方もおられるかと思います。新聞社が創刊何十周年とかの記念行事にやるのならともかく、これって国の機関がやるようなことかいな?と思わなくもないのですが、こういうことでも継続的に10年毎とかに調査を続けるならば結構文化の変遷を知るという意味で貴重な資料になるような気もします。そしてできることならば30年くらい続けてエントリーされた曲は著作権をすべて国が買い上げて楽譜などを国会図書館サイトなどで国民が自由に活用できるようにするだとかいうダイナミックなことまで行けばさすが文化庁となるところでしょう。そういった意味で私はもう少し暖かい目で見守りたいと思います。よもや記念コンサートだけやって一度きりでおしまいではないですよね...

  http://www.bunka.go.jp/index.html 文化庁のサイトで曲目はご覧になれます

さて、このリストに挙がっていた曲、私はどれだけ知っているかなと思って眺めてみたところ、たった1曲だけ歌ったことも聴いたこともなければ存在すら知らなかったものがありました。それがこの西条八十訳詞・草川信作曲の「風」という歌です。
調べてみると今年力を入れて取り上げようと思っているイギリスの詩人、クリスティーナ・ロセッティの詩が元になっている歌だということもあり、また私の大好きな作曲家・草川信の作品でもありまして俄然取り上げようという意欲が湧いて参りましたので、付け焼刃で調べただけではありますがご紹介することにします。

この詩も弊サイトで現在アイアランドの歌曲集の紹介が進行中のクリスティーナの童謡集「Sing Song(1872)」から。優しさの中にも深遠さが垣間見えるのが彼女の詩らしいです。これを西条八十が翻訳して有名な童謡集「赤い鳥」に掲載したのは大正14年(1925)といいます。そしてそこから「赤い鳥」の童謡運動に関係していた草川信によって曲が付けられたのです。
残念ながら西条八十の著作権はまだ生きておりますので、ここではクリスティーナの原詩と、そこから私が訳してみたものを載せることにします。どうせだからこの曲のメロディで歌える訳詞にしようかとも思ったのですが、そうすると西条訳にあまりに似すぎてしまってJASRACからキツイお叱りがくるかも知れないのでそいつは諦めることにしました。
風は誰にも見ることはできないけれど、風の働きは見ることができる。神様の姿も誰も見えないけれども、その御業は見ることができる、ということの譬えでしょうか。シンプルだけれど大変余韻が深く残る詩です。これに草川信の付けたメロディもそっけないほどに簡素なもの。彼の美しいメロディ群からすると私などはちょっと物足りないようにも思えますが、こうして100曲の中に入ったくらいですからきっと愛する方は相当たくさん居られるのでしょう。もっとも意外と聴ける録音は見つけられなくて私の聴けたのは安田祥子さんの歌ったもののみでした。


日本の歌100選、けっこうリストを眺めるだけでも面白い発見ができます。昭和の歌に大きな貢献をした(と私は思っている)古賀政男や古関裕而、そして服部良一の曲がひとつもないことや、中山晋平の曲が6曲とダントツな一方で山田耕筰の曲は3曲と意外と少ないこと、「鉄腕アトム」とか「ドラえもんの歌」あたりのTVの曲が入っていそうなところひとつもないこと(これは意図的に外されたか?「君の名は」とか「青い山脈」なんかもないですし)など。そしてこの草川信の曲は、「故郷」や「春の小川」などの作曲者・岡野貞一と並んで5曲で2番目に多いこと(以下中田喜直の4曲、瀧廉太郎・弘田龍太郎と山田耕筰の3曲が続きます)も注目すべきことでしょう。草川信という作曲家の名前はそれほど知られていないけれども、多くの人に愛される彼の曲がそれだけたくさん歴史に残っているということで、それはある意味作曲家冥利に尽きることなのではないかと思います。
今や歌も大量生産されて消費されている時代。たまたま今回の調査で挙げられた最近の歌のいくつが30年後・40年後にも歌い継がれているのでしょうか。著作権をあと20年程度延ばして小金を稼ぐことを考えるよりももっと根本的に考えるべき重要なことはあるのではないのかなあ、とこのリストを眺めながら私は思うのですがさて...日本の歌の伝統が滅びてしまわないことを切に願うばかりです。

( 2007.02.16 藤井宏行 )


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