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Das heilige Feuer   Op.60-1  
  Das stille Leuchten
聖なる火  
     歌曲集『静かなる輝き』

詩: マイヤー (Conrad Ferdinand Meyer,1825-1898) スイス
    Gedichte: I. Vorsaal  Das heilige Feuer

曲: シェック (Othmar Schoeck,1886-1957) スイス   歌詞言語: ドイツ語


Auf das Feuer mit dem goldnen Strahle
Heftet sich in tiefer Mitternacht
Schlummerlos das Auge der Vestale,
Die der Göttin ewig Licht bewacht.

Wenn sie schlummerte,wenn sie entschliefe,
Wenn erstürbe die versäumte Glut,
Eingesargt in Gruft und Grabestiefe
Würde sie,wo Staub und Moder ruht.

Eine Flamme zittert mir im Busen,
Lodert warm zu jeder Zeit und Frist,
Die entzündet durch den Hauch der Musen
Ihnen ein beständig Opfer ist.

Und ich hüte sie mit heilger Scheue,
Daß sie brenne rein und ungekränkt;
Denn ich weiß,es wird der ungetreue
Wächter lebend in die Gruft versenkt.


黄金色に煌めく火に
真夜中もじっと目を凝らし
ウェスタの女祭司の眼差しは睡みもせず
女神の永遠の光を見守る

祭司が睡み、寝入ってしまい
不届きにも熾火(おきび)を絶やしたならば
墓所の柩に入れられ墓穴深く
高位の祭司は塵芥と眠ることになる

私の内面のゆらめく炎は
いつ何時も暖かく燃え上がる
それはムーサの吐息に灯された
絶えることなき捧げ物

だから私は神への畏れをもって見守る
それが清く衰えることなく燃え続けるように;
もしも私に不忠があれば
生きたまま墓穴に沈むのだから



・ウェスタ Vesta: 古代ローマにおける家の中心である竈(かまど)の女神で、国の守護神とされた。古代ローマの中心地フォロ・ロマーノに、二代ヌマ王(B.C.716〜B.C.673年)の創建になるとされるウェスタ神殿があり、祭壇には神像ではなく火が燃やされていた。A.C.381年に財政難から廃止されるまでの1000年もの長きに渡って、この永遠の繁栄を象徴する聖火は灯され続けた。
・ウェスタの女祭司 Vestalis : ウェスタ神殿の祭壇の火を守る6人の未婚の女祭司で、貴族階級の6歳の少女から選ばれ、30年間の任期中純潔を義務付けられた。古代ローマの良家の女性は12〜16歳で結婚するのが普通だったので、事実上生涯独身となる。 これはウェスタがアポロン、ポセイドンに求愛された折、竈から目を離せないことを理由に断ったという伝説に拠るとされ、後世のキリスト教修道女制度に影響を与えた。ウェスタの女祭司には神殿に隣接する大きな住居と、家長にしか認められない財産権が与えられ、さらには国政に影響力さえ持つという、驚くほど高い社会的地位が与えられていた。その代り、祭壇の火が絶えることがあれば、国に災厄が及ぶという理由で鞭打ちの刑を受け、また純潔の掟を破れば、地下の部屋に閉じ込められて餓死させられるという重い刑罰が科せられていた。1000年の間に18人の祭司が処刑されたとされる。
・ムーサ Musa:言うまでもなく英語のミューズ”Muse”で、ギリシア神話において文芸を司る複数の女神。


 連続歌曲集『静かなる光』の第一曲。古代ローマのウェスタの女祭司にかけて、詩人・芸術家としての自覚を詠う、曲集の劈頭にふさわしい詩です。ウェスタの女祭司が純潔の掟を破った時の罰として生き埋めの刑があったことは有名なのですが、聖なる火を絶やした時の刑罰は鞭打ちの刑とも言われています。しかし古代ギリシア・ローマに熱中していたマイヤーのことですから、何か出典があるのかもしれません。なおこの詩は、マイヤーの詩集中多くを占める古代ギリシア・ローマを題材とした作品をあまり収録していない我が国の抄訳詩集二種には掲載されていません。
 ウェスタの女祭司を題材にした音楽では他にスポンティーニに歌劇”La Vestale”(1805)、メルカダンテに同じく”La Vestale”(1840)があります。絵画にはルーベンスとバーン=ジョーンズのものがありますが、後者の「ウェスタの女祭司の炎”Flamma Vestalis”」は炎そのものを描かずにその純潔性を表現した魅惑的女性像です。
 シェックの歌曲は詩を忠実に音楽化するといった趣の地味ながら味わい深いもの。この歌曲集は「神秘と寓意」、「山と湖」の二部に分けられていますが、「神秘と寓意”Geheimnis und Gleichnis”」の第一曲でもあるこの曲の楽譜には、「穏やかに、神秘的に”Ruhig und geheimnisvoll”」と指示されています。
演奏は雄弁なフィッシャー=ディースカウ(クラーヴェス)に、メゾのH.ファスベンダーも好演(イェックリン)。
参考文献:『図説古代ローマ文化史』フリーマン/ドリンクウォーター著(原書房)、『ギリシア・ローマ神話事典』グラント/ヘイゼル著(大修館)、O.Schoeck:Das Stille Leuchten (Universal)

( 2007.02.11 甲斐貴也 )


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