The Explorers A Sea Symphony |
探検者たち 海の交響曲 |
O vast Rondure,swimming in space, Cover'd all over with visible power and beauty, Alternate light and day and the teeming spiritual darkness, Unspeakable high processions of sun and moon and countless stars above, Below,the manifold grass and waters,animals,mountains,trees, With inscrutable purpose,some hidden prophetic intention, Now first it seems my thought begins to span thee. Down from the gardens of Asia descending, Adam and Eve appear,then their myriad progeny after them, Wandering,yearning,curious,with restless explorations, With questionings,baffled,formless,feverish,with never-happy hearts, With that sad incessant refrain,Wherefore unsatisfied soul? Whither O mocking life? Ah who shall soothe these feverish children? Who Justify these restless explorations? Who speak the secret of impassive earth? Yet soul be sure the first intent remains,and shall be carried out, Perhaps even now the time has arrived. After the seas are all cross'd, After the great captains and engineers have accomplish'd their work, After the noble inventors, Finally shall come the poet worthy that name, The true son of God shall come singing his songs. O we can wait no longer, We too take ship O soul, Joyous we too launch out on trackless seas, Fearless for unknown shores on waves of ecstasy to sail, Amid the wafting winds,(thou pressing me to thee,I thee to me,O soul,) Caroling free,singing our song of God, Chanting our chant of pleasant exploration. With laugh and many a kiss, (Let others deprecate,let others weep for sin,remorse,humiliation,) O soul thou pleasest me,I thee. Ah more than any priest O soul we too believe in God, But with the mystery of God we dare not dally. O soul thou pleasest me,I thee, Sailing these seas or on the hills,or waking in the night, Thoughts,silent thoughts,of Time and Space and Death,like waters flowing, Bear me indeed as through the regions infinite, Whose air I breathe,whose ripples hear,lave me all over, Bathe me O God in thee,mounting to thee, I and my soul to range in range of thee. O Thou transcendent, Nameless,the fibre and the breath, Light of the light,shedding forth universes,thou centre of them, Swiftly I shrivel at the thought of God, At Nature and its wonders,Time and Space and Death, But that I,turning,call to thee O soul,thou actual Me, And lo,thou gently masterest the orbs, Thou matest Time,smilest content at Death, And fillest,swellest full the vastnesses of Space. Greater than stars or suns, Bounding O soul thou journeyest forth; Away,O soul! hoist instantly the anchor! Cut the hawsers - haul out - shake out every sail! Sail forth! steer for the deep waters only! Reckless,O soul,exploring,I with thee,and thou with me; For we are bound where mariner has not yet dared to go, And we will risk the ship,ourselves and all. O my brave soul! O farther,farther sail! O daring joy,but safe! Are they not all the seas of God? O farther,farther,farther sail! |
おお広大な球体 空間を泳ぎ 完全に覆われている 明確な力と美しさで 交互に光と昼間 そして活気に満ちた霊的な闇が 言葉にできぬ高貴な行列 太陽と月 そして頭上の無数の星たちの 下にはたくさんの草と水 動物たち 山々 木々 不可解な目的を持ち 隠された予言的な意図を持つ者たちが 今初めて 私の考えも及び始めたように思える お前に アジアの庭々から下り来て アダムとイブが現れ そして彼らの無数の子孫が後に続く さまよい 焦がれ 好奇の心で たゆまぬ探検を続け 問いかけ 困惑し 混沌とし 熱狂し 決して満たされることのない心で 悲しく絶え間ないリフレインをつぶやく なにゆえに満たされぬ 魂は? どこへ行く おお嘲りの人生よ? と ああ 誰が静めてくれるのか この熱狂した子供たちを? 誰が正当化してくれるのだ このたゆまぬ探検を? 誰が語るのだ この冷徹な大地の秘密を? それでも魂よ確信せよ 最初の意図が残っており そして実行されるであろうことを おそらく今こそその時が来たのだ 海をすべて渡り終えた後 偉大な船長たちと機関士たちがその仕事をやり終えた後 気高き発明家たちの後から 最後に登場するはずだ その名前にふさわしい詩人が 神の本当の息子が自らの歌を歌いに来るはずなのだ おお 私たちは待てぬ これ以上は 私たちも船に乗るのだ おお魂よ 喜ばしく私たちも船出だ 標なき海に 恐れることなく未知の岸辺目指し 恍惚の波の上を航海するのだ 吹き寄せる風の中(お前は私を 私はお前を抱き寄せよう おお魂よ) キャロルを気ままに 神の歌を歌いながら われらの心地よい探検の讃歌を唱和しながら 笑いや たくさんのキスとともに (他人には非難させておけ 罪、後悔 屈辱を嘆かせておけ) おお魂よ お前は私を喜ばせる 私もお前を ああ どんな司祭よりも おお魂よ 私たちは信じているのだ 神を だが 神の神秘を私たちはあえて弄んだりはせぬ おお魂よ お前は私を喜ばせる 私はお前を 渡り行きつつ この海を あの丘を あるいは夜に目覚め 思考が 沈黙の思考が 時と空間と死について 水のように流れ出し 私を運ぶのだ 全く無限の領域を越えて行くかのように そこの大気を私は呼吸し その波紋が聞き手となり 洗い上げるのだ 私をすっかり 私を浸し給え おお神よ 御身のうちに 登って行く 御身のもとへと 私と私の魂が御身の王国に入るために おお御身 超越的なるお方 名付け得ぬその御力と吐息 光の中の光 全宇宙を解き放たれて 御身はその中心におわす すぐに私は心が萎えるのだ 神のことを思うと 自然とその驚異 時と空間 そして死のことを だがそんな時 私は振り向いて御身に呼びかける おお魂よ 御身こそ真の私だ すると見よ 御身は穏やかに支配される 天球たちを 御身は時の伴侶となり 満ち足りて微笑むのだ 死に向かって そして満たすのだ 空間の広大さを一杯に膨らませて 星たちや太陽たちよりもずっと偉大なる 躍動しつつ おお魂よ 御身は旅を続ける 行こう おお魂よ! 引き上げよ直ちに錨を! 切れ 大綱を−沖へ向かえ −広げるのだ すべての帆を! 出航だ!深い海だけを目指すのだ! 恐れを知らず おお魂よ 探検するのだ 私はお前と そしてお前は私と一緒に 私たちは目指すのだから 船乗りがまだあえて行ったことのないところを そして私たちは危険に晒してもいいのだ 船を 自分自身を そしてすべてを おお勇敢な魂よ! おお遠くへ 遠くへと航海だ! おお大胆な喜び だが大丈夫だ!すべて神の海ではないか? おお遠くへ 遠くへ 遠くへと航海だ! |
詞も音楽も壮大で重たい、全部で30分近く要する音楽となっています。原詩は「草の葉」の28番目のセクションPassage To India(インドへと行く道)より。確かにホイットマンの時代、インドへ渡ろうとすれば船旅しかありませんでしたからそこかしこに海や船に関わるフレーズは出ては来ておりますが、基本的なベースはインドへ渡って哲学的な生活を送ろうというようなテーマからなっておりますので、作曲者はかなり大幅に原詩を刈り込んで歌のテキストとしています。具体的には取り上げたのはこのセクションを構成する9つの詩のうちから5番目の冒頭1〜2節と3節目以降は断片的にこの詩の最後まで、および8番目の詩(O we can wait no longerから)をやはり断片的に切り刻んだダイジェストにして最後まで、それと最後の9番目の詩(Away,O soul!の部分から)の後半をダイジェストして旅立ちの誘いで締めています。ホイットマンの饒舌さから長大な詩の中であちらこちらに脱線しているものを、海を渡っての旅に関わる部分だけに切り出すテキストメイキングの力には惚れ惚れしてしまいます。ダイジェストだからといって途中の繋がりが不自然ということは全くありませんので(海と関係ない話題が唐突に出て来るのはまあご愛敬と言うことで)。
ただそれでも原詩にあった哲学的な香りはダイジェストとなっても失われることなく、深みのあるメロディともよくマッチして実に感動的な曲となりました。コーラスのみで歌われる前半はひたすら深淵に、O we can wait no longerのところから二人のソロの掛け合いとなり、まるで愛のささやきのようにも聴こえる流麗な歌に変わります。O Thou transcendentのところからはコーラスも入って来て壮麗な讃美歌として盛り上がり、Away,O soul!からは音楽全体の終結に向かって力強く、そして快速で盛り上がって行きます。最後の大団円はまたテンポがゆっくりに戻って、しみしみと憧れに満ちて曲を閉じます。これもまたなかなかニクイ終わり方。今回詩を訳しながら改めてじっくり聴いてみると痺れがくるくらい素晴らしい音楽でした。
岩波文庫の日本語訳(鍋島能弘・酒本雅之訳)を参照してもなお意味の取れない個所がけっこうありました。それだけホイットマンの世界が難解だということですが、現在私のできる限りの訳を試みてみました。
( 2020.07.20 藤井宏行 )