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Vilse   Op.17-4  
  7 Laulut
道に迷って  
     7つの歌

詩: タバストシェルナ (Karl August Tavaststjerna,1860-1898) フィンランド
    Laureatus: epopé i tretton sånger : jämte en samling efterlämnade dikter  Vilse

曲: シベリウス (Jan Sibelius,1865-1957) フィンランド   歌詞言語: スウェーデン語


Vi gingo väl vilse ifrån hvarann
Hvar togo de andra vägen?
Jag ropar i skogen hvad jag kan
Men du står och låtsar förlägen.

Blott eko det svarar: hallå,hallå!
Och gäckande skrattar en skata,
Men himmeln blir plötsligen dubbelt så blå,
Och vi höra upp att prata.

Säg,skullde din puls slå takt till min,
När samtalet går,så staccato?
Min kärlek,min kärlek tar våldsamt mitt sinn',
Jag glömmer att känna som Plato.

Jag ser i ditt öga,jag forskar och ser,
Pupillerna vidgas och slutas,
Och när du ett ögonblick strålande ler,
Då kunde ett helgon mutas.

ぼくらはどうやらはぐれたみたいだ
みんなはどこに行ったのだろう?
ぼくは森の中で声を限りに叫んでみた
けれど君は戸惑いながら立ち尽くすだけ

こだまが答える ハロー ハロー
そしてカササギは馬鹿にしたように笑う
だけど空は急に倍も青さを増してきて
ぼくらは互いの言葉に耳を傾ける

おや 君の脈はぼくと同じに脈打っているんだね
いつまでぼくたちの会話はスタッカートで続くんだろう?
ぼくの愛は ぼくの愛は 激しくぼくの心を奪い
ぼくはもうプラトニックではいられない

ぼくは君の瞳を覗き込む じっと見つめてみる
瞳が広がったり縮んだりするのを
そして君が一瞬でも輝くように微笑む時は
聖人さまでさえもムラムラくるんだろうな


シベリウスの歌曲は割と真面目なものが多いので、こんなのが出てくるというのは私もあまり想定しておりませんでした。邦題が「迷い」とかなっているものがあったりするので気が付かなかったのですが、改めてじっくりと聴くとたいへんに面白い詞と曲です。そこでちょっとこれも訳詞を遊ばせて頂きました。もっともそれほど原詩からかけ離れてはいないと思いますけれども。
まるで夏休みの林間学校か秋の遠足でのひとコマのようなこの光景。みんなからはぐれたのが果たして偶然なのかそれともこの少年の作戦なのかは何とも言えませんが、この少年漫画チックな話の展開はなかなかに微笑ましく感じられます。胸はドキドキ、会話は途切れ途切れ(「スタッカートで続く」というのはそういうことだと思います)、そしてついには欲情が爆発する(正確に訳すと「あのプラトンのようではいられない」となりますが、この人の名を語源とした「プラトニック」、まあこんな状況からかけ離れた禁欲的な愛の表現としては日本でも使いますよね。でももう死語かも...)。次の節で「ぼくは君の瞳を覗き込む」とありますから押し倒して顔をぐいっと近付けてキスを迫っています。あと最後のフレーズのmutasというのは賄賂のことみたいで、こちらも正確に訳すと「聖人たちでさえ堕落する(賄賂を受け取る)」とでもなるでしょうか。

同じシチュエーションを歌ったグリーグの「世の中なんてそんなもの(世のならい)」に比べるとそうはいいつつも音楽の方のギャグっぽさも程々ですが、それでも弾けるようなリズムには思わず微笑んでしまいます。残念ながらこの曲あまり取り上げる人は多くなくてなかなか耳にできるチャンスはありません。中では国内盤まで出ているバーバラ・ボニーの歌(London)がなかなかにお茶目な感じで非常に良かったです。
詩人のKarl August Tavaststjerna(1860-1898)はスウェーデン語の詩を書くフィンランドの詩人&小説家。長くスウェーデンの支配下にあったフィンランドではこんな感じで外国語の文学をやる人もいたのですね。シベリウスの歌曲ではよく名前を見かけるJ.L.ルネベルイもそんなフィンランド詩人のひとりです。そして「フィンランディア」なんて書いて熱烈な愛国者のように思われているシベリウスが、こと歌曲のための詩を選ぶ段になるとなぜかほとんどスウェーデン語のものを選んでいた、というのは大変に興味深いことではあります。

( 2007.02.09 藤井宏行 )


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