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浅き春に寄せて    
 
 
    

詩: 立原道造 (Tachihara Michizou,1914-1939) 日本
    優しき歌 I  浅き春に寄せて

曲: 中出良一 (Nakade Ryouichi,1931-1987) 日本   歌詞言語: 日本語


今は 二月 たつたそれだけ
あたりには もう春がきこえてゐる
だけれども たつたそれだけ
昔むかしの 約束はもうのこらない

今は 二月 たつた一度だけ
夢のなかに ささやいて ひとはゐない
だけれども たつた一度だけ
そのひとは 私のために ほほゑんだ

さう! 花は またひらくであらう
さうして鳥は かはらずに啼いて
人びとは春のなかに笑みかはすであらう

今は 二月 雪の面(おも)につづいた
私の みだれた足跡……それだけ
たつたそれだけ――私には……



立春の日に取り上げるのはやはりこの詩でしょうか。あまりにセンチメンタルに過ぎるような感じもしなくもありませんが、やはり美しい詩です。その響きの美しさに惹かれてか、非常に多くの作曲家によって取り上げられている歌でもあります。
高木東六や別宮貞雄などの大御所の作品もありますが、ここではあえて別の人の作品を。作曲者の中出良一は石川県出身の人ですが、興味深い経歴としてブラジルに14年間移住していたのだそうです。
陽気なサンバのリズムのイメージが強いブラジルですが、ヴィラ=ロボスなどの音楽を聴いているとむしろ憂愁に満ちた悲しげな音楽の方が普通ではないかとさえ思えるところ、そんな文化に触発されたのかどうか分かりませんが、この中出良一の歌曲もまた非常に憂愁に満ちた悲しいものが多いように思えます。そんな憂愁がこの立原の感傷に満ちた詩に非常に良くはまって、実に素晴らしい作品になっています。

彼の作品に関しては、奥さんで洋画家の中出那智子さんが残す努力をされているといいます。ネットで検索して頂ければ楽譜やCDも入手できるようですので、日本歌曲に関心をお持ちの方はぜひ手に取って見られてください。

( 2007.02.04 藤井宏行 )


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