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Menschenbeifall   Op.61-1  
  Sechs Hölderlin-Fragmente
世の称賛  
     六つのヘルダーリン断章

詩: ヘルダーリン (Johann Christian Friedrich Hölderlin,1770-1843) ドイツ
    Gedichte 1784-1800  Menschenbeifall

曲: ブリテン (Edward Benjamin Britten,1913-1976) イギリス   歌詞言語: ドイツ語


Ist nicht heilig mein Herz,schöneren Lebens voll,
Seit ich liebe? warum achtetet ihr mich mehr,
Da ich stolzer und wilder
Wortereicher und leerer war?

Ach!,der Menge gefällt,was auf den Marktplatz taugt,
Und es ehret der Knecht nur den Gewaltsamen;
An das Göttliche glauben
Die allein,sie selber sind.

私は敬虔になり、よりよき生に満たされたのではないのか、
愛を知ったことで。何故あなた方はそれより尊ぶのだ、
私が傲慢にして粗野
饒舌にして空疎であった頃を。

ああ! 大衆は商い向けのものを気に入り、
下僕は権力の源だけを讃えるのだ;
神の力を信じるのは
ただ己が内にそれを持つ者のみ。


 ブリテンの「六つのヘルダーリン断章」Op.61(1958)は、イギリスの作曲家ブリテンによるドイツ語歌曲です。断章と言っても、本当の断章は第6曲の「人生の線」だけで、残りは完成された詩です。第4曲で二連の省略がある以外は原詩に忠実であり、「ヘルダーリンの詩による6つの歌曲」と称しても全く問題の無い内容です。それを何故ブリテンが断章と名付けたかはわかりませんが、短詩ばかりであることと、ノヴァーリスの断章のように哲学的洞察や警句的性格があるからではないかと、個人的には考えています。
 本作はヘルダーリンの詩をブリテンに紹介した友人のヘッセン・ライン公ルートヴィヒに献呈され、ピーター・ピアーズとブリテンにより公の誕生日に居城で初演されたとピアーズ&ブリテンの日本盤CDの解説書にあります。その作曲者による初演コンビの演奏は大変素晴らしいのですが、昨年10月に初CD化されたそれは、なんと本邦初発売とのことです。いかにこの曲がこれまで不当に等閑視されていたかがわかります。
 さて第一曲は、自信の新作より旧作の評価が高いことに苛立つ詩でしょうか。いかにも青臭いですが、生真面目な理想主義者ヘルダーリンらしい詩です。代表作である長編書簡小説『ヒュペーリオン』を書いていた頃に作られた短詩のひとつになります。
 ブリテンの曲は冒頭力強く動的で、尊大な若き詩人の苛立ちを表しています。そのあと静かになって、最後の2行で冒頭のテーマが回帰します。自演盤のブリテンのピアノは水際立ったリズムを聴かせ、ピアーズの若々しいテノールが若き詩人の思いを熱く伝えます。他にティペットやフィンジともに歌われたマーク・パドモア(t)とロジャー・ヴィニョールズ(p)のハイペリオン盤もあり、これも歌唱、ピアノとともに優れた演奏と思います。

( 2007.01.15 甲斐貴也 )


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