斑猫(はんみょう) |
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「はんみょうでーす」という最初の一声がなんとも間が抜けているように聴こえて笑ってしまわんでもないのですが、背景に流れる音楽はドビュッシーも顔負けの美しいフランス印象派の音楽。その後の曲想変化といい美しい伴奏のメロディへのデクラメーション(語り)の織り込み方の見事さといい、同じ年1928年に書かれた歌曲「黴」と並んで日本歌曲の大革新を導いた傑作歌曲ではないかと思います。この翌年に書かれた「舞」のような邦楽の語り物との融合のような大胆なインパクトはないですが、ドビュッシーやラヴェルの歌曲のスタイルを見事に日本語に移し変えただけでも凄いと私は思います。フランス語で歌われたら多くの人がドビュッシーの歌曲と信じてしまうのではないでしょうか。とても美しくも魅力的な歌です。
深尾須磨子の象徴詩も言葉の散りばめ方が実に美しく、この翅が美しく光り輝く甲虫が、南国の真夏の山道を歩く詩人の足元をからかうかのように跳びはねる情景を奇妙に描き出しています。「南の国の夏の日ざかり」を描写するにはこのドビュッシー風のけだるい音楽は絶妙にはまり、そして時に歌い、時に語るその声は雄弁です。最後に「うまくつかまえて襟飾りにでもしてください」とぼそっとつぶやいて終わるところはまた笑ってしまうところですがまた実に「巧い」終わり方。
藍川さんも関さんもそれぞれの持ち味を生かした名唱です。あとはこの曲をCDのタイトルにしているメゾソプラノの西明美さんの翳りをおびたしっとりした声で歌われているのが、岡田知子さんのきらめくピアノ伴奏と溶けあってとても美しい演奏でした。
( 2007.01.02 藤井宏行 )