Der Reisebecher Op.60-19 Das stille Leuchten |
旅行杯 歌曲集『静かなる輝き』 |
Gestern fand ich,räumend eines langvergeßnen Schrankes Fächer, den vom Vater mir vererbten,meinen ersten Reisebecher. Währenddes ich,leise singend,reinigt ihn vom Staub der Jahre, Wars,als höbe mir ein Bergwind aus der Stirn die grauen Haare, wars,als dufteten die Matten,drein ich schlummernd lag versunken, wars,als rauschten alle Quelle,draus ich wandernd einst getrunken. |
昨日のこと、久しく忘れていた戸棚の引出しを片付けていたら、 父にもらった、わたしの最初の旅行杯が出てきた。 低く歌いながら歳月の埃を払っていると、 山の風が額から白くなった髪を吹き上げ、 身を沈めまどろんだ高原の草地が香り、 道すがら喉潤した全ての泉がさざめくかのようだった。 |
既存の訳では「旅の盃」と訳されていますが、それだと酒盃の印象が強すぎるように思います。Reisebecherとは我が国ではあまり一般的ではない、旅行用の蓋付きのコップのことです。これに飲み物を入れて歩いたり、泉の水を汲んで飲んだりしたわけですが、今日でも欧米では主に保温性・保冷性のある携帯用のカップとして、ドライブやレジャー、オフィスなどで広く用いられています。英語ではトラベル・マグTravel Mugと呼ばれており、最近我が国でも外資系のセルフサービスの喫茶店で、持ち帰り用に売られていることから広まりつつあるようです。
それに当たる日本語の訳語が無いのが困ったところで、我が国には古来「旅盃」というものもあるようですが、これもそのものずばり携帯用のお猪口です。そこで調べてみると、中国ではトラベル・マグを「旅行杯」と呼んでいることがわかりました。どうやらこれは英語からの直訳のようなのですが、「旅の盃」「旅盃」にしてもまったく一般性の無い言葉なので、思い切って中国名を借用することにしました。
シェックの曲は淡々と語り始めて、3行目で歌詞の通り低い歌となり、美化された過去をしみじみと回顧する地味ながら魅力的な作。泉の出てくるところで、ゆるやかなアルペジオが控え目に始まるのがなんともいい味です。
演奏はフィッシャー=ディースカウがさすがの上手さですが、前半もう少しさりげなさも欲しい気がしました。
( 2006.12.06 甲斐貴也 )