TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ


Antique   Op.18-3b  
  Les Illuminations
アンティーク  
     イリュミナシオン

詩: ランボー (Jean Nicolas Arthur Rimbaud,1854-1891) フランス
    Les Illuminations  Antique

曲: ブリテン (Edward Benjamin Britten,1913-1976) イギリス   歌詞言語: フランス語


Gracieux fils de Pan!
Autour de ton front couronné de fleurettes et de baies
tes yeux,des boules précieuses,remuent.
Tachées de lies brunes,tes joues se creusent.
Tes crocs luisent.
Ta poitrine ressemble à une cithare,
des tintements circulent dans tes bras blonds.
Ton coeur bat dans ce ventre où dort le double sexe.
Promène-toi,la nuit,
en mouvant doucement cette cuisse,
cette seconde cuisse et cette jambe de gauche.

牧神の優雅な息子たちよ!
小さい花やキイチゴで飾られたお前の額のそばで、
お前の眼-精巧な目玉-が動いている。
茶色の酒粕が染み付いて、お前たちの頬はこけている。
お前たちの牙が光る。
お前たちの胸はツィターに似て、
美しい腕の中で余韻が響き渡る。
お前たちの心臓はふたつの性が眠っている下腹の中で脈打っている。
さまようがよい、この夜に、
そっと一方の脚を動かし、
そしてもう一方を、そしてまた左の足を動かしながら。


「古代の」という意味のある詩のタイトルですが、ここでは訳さずにそのまま「アンティーク」を使うことにしました。
牧神(Pan)といえばギリシャ神話の半獣神で、上半身が老人、下半身がヤギで頭に角が生えている姿なのだそうですが、ここではその「息子」ですね。何とも不思議な生き物の描写です。目玉がロボットのようにギョロリとした感じですし、酒粕が染み付いて頬がこけ、更に口元からは牙が覗いている。上半身の方に付いている腕の間にある胸はまるで楽器のようですし(多くの邦訳ではここをシタールとしているようですが、クラシック音楽を聴かれる方であればそのままツィターとしても楽器のイメージは持っておられると思いましたのでツィターにしています)、そして下腹にはふたつの性が眠っている、その筋の用語ではフタナリとかいうやつでしょうか。ヤギの足は4本ありますから、そのうちの3本を動かす描写で締めているところも面白いです。
この両性具有のところ、あるいは酒びたりの描写などを含め、この牧神の息子はランボーが手に手を取り合って旅したヴェルレーヌのことを描写しているのではないかという解釈がされているようです。
そして興味深いのはブリテンのこの曲「アンティーク」も、指揮者ヘルマン・シェルヘンの息子ウルフ・シェルヘンWulff Scherchenに捧げられているということです。このブリテンという人は少年愛で知られた人のようでして、指導していた少年合唱団などを通じて多くの少年たちとの交際を深めていた(というより毒牙にかけていた?)と言われていますが、このウルフとも彼が13歳の時の1934年から6年間ほどお付き合いをしていたようで、このお付き合いは作曲者が北アメリカに旅立つ1939年まで続きます。この「イルミナシオン」の作曲がちょうどこの頃ですから、この曲を捧げたことにも、そしてこの詩と音楽にも深い意味を感じ取れてしまいますね。

もっとも音楽の方はそんなエグさは微塵も感じられず、低弦のピチカートに乗せてヴァイオリンの美しいメロディが時に声とユニゾンで、そして時にはオブリガードでという風にゆったりと歌います。曲だけ聴くとパーシーフェイスかポールモーリアかといった感じのムードミュージックっぽい穏やかな音楽ですので、こんな背景を知らない方が鑑賞に取っては良いのかも知れません、って皆さんもう読んでしまいましたよね...(すみません)

最近復刻された、ピーター・ピアーズのテナーにユージン・グーゼンスの指揮ニュー・シンフォニーオーケストラのDecca盤がモノラルなのですがその生々しい音と迫力でとても素晴らしかったです。オーストラリアのEloquenceという激安レーベルから出ているので1000円以下で入手でき、デニス・ブレインのホルンが見事なセレナーデも併録されていますのでぜひ耳にしてみてください。


    もっとまともな訳詩と詳細な解説はこちらで 門司邦雄さんのサイト
           ここで「古代の」をご参照ください 

( 2006.11.25 藤井宏行 )


TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ