Strashnaja minuta Op.28-6 6 Romansov |
恐ろしい瞬間 6つのロマンス |
Ty vnimaesh’,vniz skloniv golovku,ochi opustiv i tikho vzdykhaja! Ty ne znaesh’,kak mgnoven’ja eti strashny dlja menja i polny znachen’ja, kak menja smushchaet eto molchan’e. Ja prigovor tvoj zhdu,ja zhdu reshen’ja - il’ nozh ty mne v serdtse vonzish’, il’ raj mne otkroesh’. Akh,ne terzaj menja,skazhi lish’ slovo! Ot chego zhe robkoe priznan’e v serdtse tak tebe zapalo gluboko? Ty vzdykhaesh’,ty drozhish’ i plachesh’; il’ slova ljubvi v ustakh tvoikh nemejut,ili ty menja zhaleesh’,ne ljubish’? Ja prigovor tvoj zhdu,ja zhdu reshen’ja - il’ nozh ty mne v serdtse vonzish’, il’ raj mne otkroesh’. Akh,vnemnli zhe mol’be moej,otvechaj,otvechaj skorej! Ja prigovor tvoj zhdu,ja zhdu reshen’ja! |
きみはじっと聴いているね、うつむきながら目を伏せて、静かに溜息をつきながら! きみは知らないんだ、この瞬間が ぼくにはどれほど恐ろしいか、そしてどれほど重大なのかを きみの沈黙に、ぼくがどれほどドキドキしていることか ぼくはきみの決心を待っている、告白を待っている きみはぼくの心にナイフを突き立てるのだろうか それともぼくの人生を天国にしてくれるのだろうか ああ、ぼくを苦しめないで、一言だけでも言ってくれ なぜこの臆病な愛の告白がきみの心の奥深くまで届いてしまったの きみは溜息をつき、震え、涙を流してる 愛の言葉がうまく言えないだけなのか それともぼくを気の毒に思っているだけで、愛してはいないのか? ぼくはきみの決心を待っている、告白を待っている きみはぼくの心にナイフを突き立てるのだろうか それともぼくの人生を天国にしてくれるのだろうか ああ、このつらい気持ちを聞き届けて、今すぐにでも答えてくれ ぼくはきみの決心を待っている、告白を待っている |
チャイコフスキー歌曲としてはけっこう多くの録音で見かける曲なのですが、表題の「恐ろしい瞬間」というのに惑わされて、チャイコフスキーお得意のクラーい歌かなあと思い込んでか今まで私はあまりこの曲には着目していませんでした。でも改めて詩をよくみるとけっこう面白いです。何がといってこれ、この内容でチャイコフスキー自身の作詞なんですよ。中学生の愛の告白みたいな純朴さが感じられて思わず微笑んでしまいます。チャイコフスキー自身は老若男女問わず恋多き人であったようなので、この涙を流しながら彼の愛の告白を聞いている相手がどんな人なのかを想像してみるのも興味深いですね。実は結構倒錯したことを歌っているのかもしれません。
印象的なピアノ前奏に導かれて、なんとも可愛らしい歌が始まります。メジャーのようなマイナーのような不思議な和声の進行をしながら。歌詞はご覧の通りけっこう切迫していますが、このノンビリした音楽は微笑ましく、それほど重大なことではないんだな、と思えてしまいます。子供のころ、告白することが人生の重大事のように思えていたのが、おとなになってから振り返るとちょっと恥ずかしいような、甘酸っぱい思い出になっているというそんな感じを思わせます。
私は「決心」「告白」と訳しましたけれども、これらは裁判の用語として使われるのが普通なようで、それぞれ「(陪臣員の)評決」と「(裁判官の)判決」に当たる言葉のようです。そのまま使うとちょっと堅い表現になってしまいましたのでこのようにしました。もっとも子供がイキがって難しい言葉をあえて使っているということなのかも知れないですけれども。
このある種の情けなさ、といいますか気恥ずかしさを表しているのは男声の方かも知れません。女声で聴くとヴィシネフスカヤでもボロディナでも抒情的な美しさの方が強く出て、そんなみっともない青春の思い出感が薄れてしまったように思えます。バスのネステレンコが歌ったものがその点では絶妙。
もっともこれは自分と同性の声の方が感情移入できるということもあるのかも知れません。
( 2006.11.19 藤井宏行 )