Legenda Op.54-5 16 Pesni dlja detej |
伝説 16の子供のための歌 |
Byl u Khrista-mladentsa sad,i mnogo roz vzrastil on v nem. On trizhdy v den’ ikh polival,chtob splest’ venok sebe potom. Kogda zhe rozy rastsveli,detej evrejskikh sozval on; oni sorvali po tsvetku,i sad byl ves’ opustoshen. “Kak ty spletesh’ teper’ venok? V tvoem sadu net bol’she roz!” “Vy pozabyli,chto shipy ostalis’ mne”,- skazal Khristos. I iz shipov oni spleli venok koljuchij dlja nego, i kapli krovi vmesto roz chelo ukrasili ego. |
幼子キリストが庭におられて、たくさんのバラの花を育てていた。 一日に三度の水やりは欠かさなかった、これで花の冠を作ろうと思ったのだ バラが花開いたとき、彼はユダヤの子供らを呼び集めた; すると子供たちは花をみな摘み取ってしまい、あとには荒れた庭だけが残った 「どうやって花の冠を作るの? あなたの庭にはもう一本もバラはないのに!」 「きみたちは忘れてるよ、まだぼくには茨が残っているんだ」とキリストは言った。 そこで彼のため茨から子供たちは冠を作った バラのかわりにしたたる血のしずくが彼を飾った |
チャイコフスキーのあまり歌われない歌曲集にOp.54の16曲の子供のための歌というのがあります。私も今まで何曲かは聴いたことがあるものの全部はノーチェックだったのですが、今回チャイコフスキーを集中的に聴き込むのを機会にNaxosにあるチャイコフスキー歌曲全集のVol.2にある録音を聴いてみましたらなかなか素敵でした。歌詞は子供のためにしては結構重たいものが多いのですが、音楽は素朴な民謡風なので、音だけ聴いている分にはとても楽しいです。これからも何曲か取り上げようと思いますが、まずはJun-Tさんのあそびの音楽館でその中の第5曲Legenda(伝説)をMP3としてアップされるとのことでしたので、ここで使われている詩についてちょっと気合を入れて調べてみました。
この子供のための歌、ロシア語の詩はチャイコフスキーの歌曲ではよく名前を見かけるアレクセイ・プレシチェーエフの手になるものなのですが、この曲Legendaにはオリジナルがあって、19世紀のイギリスの詩人リチャード・ストッダード Richard Henry Stoddard (1825-1903)の手になるROSES AND THORNS(バラとイバラ1880)というのがもともとの原詩のようです。ネットを探したらこの原詩も見つかりましたので下の方に載せています。これはロシア語訳ともそんなに違わない感じですね。
英文学に詳しくない私にはこのストッダードという人がどんな位置付けの詩人なのかは分かりませんが、見つけた彼の詩集を見るとけっこうこんな感じの味わい深い(といいますか意味深長な)詩がいろいろあって面白く読めました。残念ながらあまり歌曲の詩にはなっていないみたいですけれども...
イバラの冠といえば、イエス・キリストが磔になったときに、彼を嘲った民衆が「王の冠ならこれでも被れ」とばかりにかぶせたものですが、ここでは無邪気な子供たちによってかぶせられているところが何とも言えず怖いところです。しかもそれをするのがユダヤの子供、というところがユダヤ人迫害の歴史の匂いも感じさせてちょっと憂鬱になってしまいます。こんなのが子供のための歌の詩として取り上げられているのもなんというか...
Roses and Thorn
The young child Jesus had a garden,
Full of roses,rare and red:
And thrice a day he watered them,
To make a garland for his head.
When they were full-blown in the garden,
He called the Jewish children there,
And each did pluck himself a rose,
Until they stripped the garden bare.
“And now how will you make your garland?
For not a rose your path adorns.”
“But you forget,” he answered them.
“That you have left me still the thorns,”
They took the thorns,and made a garland,
And placed it on his shining head;
And where the roses should have shown
Were little drops of blood instead.
Richard Henry Stoddard (1825-1903)
うっかりと見逃していましたが、この曲にはボリス・クリストフの録音がありました(EMI)。芸達者な彼の歌で聴くと実に見事です。彼はチャイコフスキー歌曲もそこそこ録音しており、この曲のように他であまり聴けない歌で素晴らしいのがいくつかありました。それらもおいおい取り上げてみようかと思っています。またこの曲、日本語のタイトルでは聖史曲という名が一番通りが良いようです。
( 2006.11.09 藤井宏行 )