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Automne malade   H.213b  
  Dvě Písně
病める秋  
     2つの歌

詩: アポリネール (Guillaume Apollinaire,1880-1918) フランス
    Alcools  Automne malade

曲: マルティヌー (Bohuslav Martinů,1890-1959) チェコ   歌詞言語: フランス語


Automne malade et adoré
Tu mourras quand l'ouragan soufflera dans les roseraies
Quand il aura neigé
Dans les vergers

Pauvre automne
Meurs en blancheur et en richesse
De neige et de fruits mûrs
Au fond du ciel
Des éperviers planent
Sur les nixes nicettes aux cheveux verts et naines
Qui n'ont jamais aimé

Aux lisières lointaines
Les cerfs ont bramé

Et que j'aime ô saison que j'aime tes rumeurs
Les fruits tombant sans qu'on les cueille
Le vent et la forêt qui pleurent
Toutes leurs larmes en automne feuille à feuille
     Les feuilles
     Qu'on foule
     Un train
     Qui roule
     La vie
     S'écoule

病気の、愛されし秋よ
お前は死ぬだろう、あちこちのバラ園に嵐が吹き荒れ
そして雪が降るとき
あちこちの果樹園に

哀れな秋よ
死ぬのだ、白さと芳醇さに包まれて
この雪と熟れた果物との
空の彼方には
鷹が舞っている
緑の髪をしたちびの水の精の頭上を
誰も愛したことのないやつの上を

遠くの森の中では
鹿たちの鳴き声

そして何と僕は好きなのだろう おおこの季節が 何てお前の立てる音が
落ちてくる果実 だれも摘み取らない
風 そしてすすり泣く森
秋の涙は 一枚一枚の落葉
    落葉たちは
    踏みしめられる
    汽車が
    通り過ぎていく
    人生も
    流れ去っていく


晩秋の、本当に冬が間近に迫った時期の詩として大変印象的。秋が病気でもうすぐ死ぬのだ、という描写は見事です。
取り入れられなかった果物も枝から落ちて転がっている。そして一枚一枚と舞い散る落葉を森の流す涙と見立てているあたり、そして最後の短い節がぽつぽつと改行されているのもこの季節の終わりを人生の終わりのように見立てているようです。クルト・ワイルに人生の秋をしみじみと歌った「セプテンバー・ソング」という傑作がありますが、それに習えばこれは「ノーヴェンバーソング」とでも言いたくなる趣です。雪の白さは死装束でしょう。熟れた果物も死者へのお供え物のようなイメージですね。
それとこの詩が収められた彼の詩集「アルコール」、着目すべきは句読点をひとつも使わずに詩が書かれていることです。
訳しているとつい意味の切れ目で使いたくなっちゃうんですが、ここではぐっと我慢して邦訳でも使わないように、それと改行に合わせて意味が対応が取れているようにしました。

この晩秋の見事な詩に曲を付けているのはチェコの作曲家ボスホラフ・マルティヌー。彼は長くフランスで活躍しましたのでこんな風にフランスの詩に付けた歌曲がいくつもあります。これは1913年ということなのでまだ若いときの作品。そういうわけでかかなりドビュッシー風の歌曲になっています。この有名なアポリネールの詩、意外と歌曲になっていないようでもったいないのですが(あとは私は未聴ですがスペインの作曲家エルンスト・アルフテルのものくらい?これはオーケストラ伴奏のものの録音がASVレーベルにあるようです)、こんなにフランス歌曲の味のある作品があれば私は満足です。なおこれは東欧歌曲の常で、フランス語でも、あるいはチェコ語の訳詞ででも歌われる歌曲のようです。残念ながら私の聴くことのできたのはNaxosから出ているマルティヌー歌曲集(Olga CernaのメゾにJitka Cechovaのピアノ伴奏)のみで、ここではフランス語版で歌われていました。そうは言いながらも彼の多彩な声楽作品の一端を知ることのできる素晴らしい録音で大変楽しく、この20世紀の奇才を楽しむには十分な録音でしょう。

( 2006.11.07 藤井宏行 )


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