Hymne Op.7 Trois mélodies |
賛歌 3つのメロディ |
À la très chère,à la très belle, Qui remplit mon coeur de clarté, À l'ange,à l'idole immortelle, Salut en immortalité, Salut en immortalité! Elle se répand dans ma vie, Comme un air imprégné de sel, Et dans mon âme inassouvie, Verse le goût de l'Eternel. Comment,amor incorruptible, T'exprimer avec vérité? Grain de musc,qui gîs invisible, Au fond de mon éternité? À la très chère,à la très-belle, Qui remplit mon coeur de clarté, À l'ange,à l'idole immortelle, Salut en immortalité, Salut en immortalité! |
一番親愛な人に、一番綺麗な人に ぼくの心を光で満たしてくれる人に 天使に、不滅のアイドルに 永遠に幸多かりしことを願う 永遠に幸多かりしことを願う あの人はぼくの人生に染み込んでいく まるで塩気を含んだ海風のように そして満たされぬぼくの魂に 永遠というものの味わいを注ぎ込むのだ どうすれば、不滅の愛よ お前を正しく表現できるのだろう? この目に見えない麝香の粒 ぼくの永遠の奥底に横たわるこの香りを? 一番親愛な人に、一番綺麗な人に ぼくの心を光で満たしてくれる人に 天使に、不滅のアイドルに 永遠に幸多かりしことを願う 永遠に幸多かりしことを願う |
ボードレールの有名な詩集「悪の華」のなかのひとつの詩。この詩自体はそれほど有名なものではありませんが、意外なことに初期のフォーレが曲を付けています。
フォーレは面白いくらいに作曲年代によって選ぶ詩人が偏っていますが、このボードレールはユゴーやゴーティエと並んで彼の歌曲で取り上げられるのは初期の作品に限られるのは大変興味深いところです。まあボードレールの中でもおとなしめのあまり強烈でないものばかりに曲を付けていますから、彼にとってはその他大勢の群小詩人とあまり変わらない扱いだったのでしょうか。この頃まだボードレールの名声は今ほど高くなかったようですし、またあんまりフォーレの音楽の美質とこのボードレールという詩人とは合わないようにも思えますので、これも若い頃の試行錯誤のひとつであると考えた方が適当なのかも知れません。曲の雰囲気は「ネル」と同じような情熱的な恋の歌。ただあの曲ほど美しくも熱烈なメロディではありません。といいつつも飛翔するような上昇音型の歌と優雅なピアノ伴奏との掛け合いはなかなか素敵です。
実はフォーレはボードレールの原詩の第3節をカットしています。カットした第3節はこんな感じです。
Sachet toujours frais qui parfume
l'athmosphère d'un cher réduit,
encensoir oublié qui fume
en secret à travers la nuit.
いつもフレッシュな香りの小袋から
この愛しい小さな部屋の空気の中
忘れられた香炉が煙る
この夜通し、ひそやかに
ド素人の私などは、別にカットしなくてもいいじゃないかと思ってしまうような素敵なフレーズなのですが、詩にこだわるフォーレには何か冗漫に見えたのでしょうか。あともう1箇所、最後の節の1行目は原詩では“À la très bonne (一番素敵な人に)”なのですが、ご覧のようにフォーレはここを第1節と同じメロディを再現させるために同じ歌詞に揃えています。
( 2006.10.08 藤井宏行 )