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Die Loreley   S.273  
 
ローレライ  
    

詩: ハイネ (Heinrich Heine,1797-1856) ドイツ
    Buch der Lieder - Die Heimkehr(歌の本〜帰郷 1827) 2 Ich weiß nicht,was soll es bedeuten

曲: リスト (Franz Liszt,1811-1886) ハンガリー   歌詞言語: ドイツ語


Ich weiß nicht was soll es bedeuten,
Daß ich so traurig bin;
Ein Märchen aus alten Zeiten,
Das kommt mir nicht aus dem Sinn.

Die Luft ist kühl und es dunkelt,
Und ruhig fließt der Rhein;
Der Gipfel des Berges funkelt
Im Abendsonnenschein.

Die schönste Jungfrau sitzet
Dort oben wunderbar;
Ihr goldnes Geschmeide blitzet,
Sie kämmt ihr goldenes Haar.

Sie kämmt es mit goldenem Kamme
Und singt ein Lied dabei;
Das hat eine wundersame,
Gewaltige Melodei.

Den Schiffer im kleinen Schiffe
Ergreift es mit wildem Weh;
Er schaut nicht die Felsenriffe,
Er schaut nur hinauf in die Höh.

Ich glaube,die Wellen verschlingen
Am Ende Schiffer und Kahn;
Und das hat mit ihrem Singen
Die Lore-Ley getan.

なぜだか良くは分からないけれど
私はとても悲しい気持ちだ
古い昔の物語が
心に深く響いてくる

風は冷たく、あたりは暗くなった
そして静かに流れるライン川
山の頂きは輝いている
沈む夕日を浴びながら

美しい乙女が座っていた
あそこの岩の上に
金色のアクセサリーが光っている
乙女は金色の髪を梳いているのだ

彼女は髪を金色の櫛で梳かし
そして歌を歌っている
それは不思議な
だが強力なメロディだ

小舟に乗った船乗りは
激しい悲しみと共にそれを聴く
水底の岩には目もくれず
彼はただ上を見上げる

私は信じている、波が飲み込むのだと
こうしてついには船乗りと船を
それは彼女の歌の力で
あのローレライがしたことなのだ


詩集「歌の本」にあるハイネの作ったローレライの詩は日本でも近藤朔風の見事な訳によって知られ、ドイツの作曲家フリードリッヒ・ジルヒャーの曲によって日本でも広く歌われている(歌われていた?)ところでしょうか。今回私が取り上げようと思ったのは同じ詩に付けた曲ではありますがフランツ・リストによるもの(1841)。ジルヒャーの民謡のような素朴な曲想でなく、もっとドラマ仕立てで面白く聴けます。確かに詩を直訳してみると冒頭の情景描写はともかく、幻想的なローレライの登場のシーンや、船人たちの破滅するところなどは結構雰囲気が変わっていますので、そのあたりに忠実にメロディを付けるとリストの曲のようになるのでしょう。第2節の夕暮れの風景描写のところのメロディが大変に美しいですし、全体としてもとても説得力のある歌になっています。最後の「ローレライがしたことなのだ」の部分は何回か繰り返されますが、最初はこの物語を畏怖するかのように厳かに、それからラインの夕暮れを描写した美しい第2節のメロディで、そして最後はローレライに憧れるかのように静かに。船乗りの破滅の部分がひたすら激しく、それが沈没とともにふっと静かになってからの繰り返しですからことのほか印象的です。
リストの他の歌曲がそうであるようにこの歌もまたピアノ独奏曲に編曲されていて、おそらくこちらの方が良く聴かれているのではないかと思います。私も歌付きで聴いたのはディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウの歌にダニエル・バレンボイムの伴奏のリスト歌曲集(DG)のみ。
でもこれだけ見事な解釈で歌われていれば文句の付けようはないです。曲想の変化の激しいこの曲では絶大な説得力です。

歌で知られた詩の方は2つの連がひとつに纏まってたいへんにコンパクトです。日本語とドイツ語の一音節に乗る情報量の差がこんなにある歌というのも私ははじめてで、その意味でも感動しました。でも見事な訳詩ですね。

  なじかは知らねど 心わびて
  昔の伝説(つたえ)は そぞろ身にしむ
  寥(さび)しく暮れゆく ラインの流れ
  入日に山々 あかく映ゆる

  美(うるわ)し少女(おとめ)の 巖頭(いわお)に立ちて
  黄金(こがね)の櫛とり 髪のみだれを
  梳(す)きつつ口吟(くちずさ)む 歌の声の
  神怪(くすし)き魔力(ちから)に 魂(たま)もまよう

  漕ぎゆく舟びと 歌に憧れ
  岩根も見やらず 仰げばやがて
  浪間に沈むる ひとも舟も
  神怪(くすし)き魔歌(まがうた) 謡(うた)うローレライ

    近藤朔風 訳

( 2006.10.05 藤井宏行 )


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