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A Poison Tree    
  Ten Blake Songs
毒の木  
     10のブレイク歌曲

詩: ブレイク (William Blake,1757-1827) イギリス
    Songs of Experience 21 The poison tree

曲: ヴォーン=ウィリアムズ (Ralph Vaughan Williams,1872-1958) イギリス   歌詞言語: 英語


I was angry with my friend.
I told my wrath,my wrath did end.
I was angry with my foe.
I told it not,my wrath did grow;

And I water'd it in fears,
Night and morning with my tears;
And I sunned it with smiles,
And with soft deceitful wiles;

And it grew both day and night
Till it bore an apple bright,
And my foe beheld it shine,
And he knew that it was mine,

And into my garden stole
When the night had veil'd the pole.
In the morning glad I see
My foe outstretched beneath the tree.

私が友人に腹が立ったときは
怒りを口にした、だから怒りは消えた
私が敵に腹を立てたときは
そいつを口にしなかった、それで怒りは増していった

私は恐れつつそいつに水やりをした
夜に昼に私の涙を注いで
そして私は微笑みで照らし
口当たりの良い騙しの肥料を与えた

日ごと夜ごとにそいつは育ち
ついには輝くリンゴの実がなった
私の敵は木の陰で目を輝かせたが
リンゴは私のものだと分かっていた

そこでやつは庭へと忍び込んだ
夜が空を覆い隠したときを狙って
朝に私は見て大喜び
私の敵は木の下で大の字にノビていた


ウイリアム・ブレイクの不思議な味わいの詩です。「もの言わぬは腹ふくる」の喩え通り、
言えない腹立ちを溜め込んでいるうちにそれがどんどん育ってやがて立派な実がなります。
ここでリンゴが出てきたのは旧約聖書、アダムとイブの知恵の実のパロディでしょうか。
それでまたその実を怒りの原因を作った敵が盗み出そうとするのがまた奇妙です。

そしておいしそうに見えたのは実は毒リンゴであったのでした。
もっとも中毒して死んでしまう「私の敵」は大の字にノビていて何とも情けない死に方...
非常にシニカルな、ほんのりとユーモアさえ感じさせる詩です。ただ言ってることは深いですけれど。
意味深長な詩が多い「経験の歌 Songs of Experience」の中でもかなりユニークで、私はとても
印象に残りました。

さて、この詩を晩年のヴォーン=ウイリアムスがオーボエソロの伴奏による歌曲にしていますが、
しっとりとよく歌うオーボエと淡々と語るような歌であまり毒気は感じません。
まあブレイクの詩が全体に意味深長な哲学的なものが多いので、この簡素なスタイルに
よく合っているとも言えるのですけれども。

取っ付きは良くないかも知れませんが、詩を深く味わいながら聴くと大変面白い歌曲集だと思います。

( 2006.10.01 藤井宏行 )


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