Elegy Op.31-4 Serenade for tenor,horn and strings |
エレジー テノール・ホルンと弦楽のためのセレナード |
O Rose,thou art sick! The invisible worm That flies in the night, In the howling storm, Has found out thy bed Of crimson joy: And his dark secret love Does thy life destroy. |
バラよ お前は病気なんだ! 見えない蟲が 夜陰に飛んでくるんだ この唸る嵐の中を そいつはお前の寝床を見つけてしまった 真っ赤な喜びの寝床を そして奴の暗い秘密の愛が お前の命を吸い尽くすのだ |
ウイリアム・ブレイクのとても奇妙な詩です。出典は「経験の歌 Songs of Experience」より。ご覧の通りの謎めいた比喩のためか昔から様々な解釈がなされているようで、宗教的な意味を見るもの、あるいはセクシャルな解釈(ホモの話と見ているような文章までありました。これってブリテン向き?)まで様々でした。Dark Secret Loveっていうのが意味深でそそりますね。ロリコンとか2次元キャラ萌なんかのオタクが暴走してヘンタイの粋に達しているような雰囲気です。Wormも少し前に流行った陰陽師のお話をイメージして、ここでは「蟲」の字をあててみました。また原詩では「お前の命を台無しにする(破壊する)」ですが、蟲が寝床にいる乙女に取り憑くような感じがなんだか吸血鬼(っていうか吸血虫)っぽいので「命を吸い尽くす」としてみました。
ブリテンの「セレナード」では、重々しく唸る弦楽の上でホルンが息の長いフレーズを奏で、それがすーっと消え去ってからおもむろに歌が語るように入ってきます。弦だけの伴奏でこの詩が歌われたあと、再び冒頭のようなホルンのソロが戻ってきて、そして今度は消え入るのではなく、音を不気味に割って曲を終えます。前の曲までの美しい夕暮れの情景から一転して深い夜闇の光景。官能的な濃密さも感じさせながら音楽の方もたいへん不思議な味わいです。(2006.09.29)
( 2007.09.15 藤井宏行 )