さっきのつや消しの 歩行について |
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さつきの光沢消しの立派な馬車は いまごろどこかで忘れたやうにとまつてようし 五月の黒いオーヴアコートも どの建物かにまがつて行つた 冬にはこゝの凍つた池で こどもらがひどくわらつた (から松はとびいろのすてきな脚です 向ふにひかるのは雲でせうか粉雪でせうか それとも野はらの雪に日が照つてゐるのでせうか 氷滑りをやりながらなにがそんなにをかしいのです おまへさんたちの頬つぺたはまつ赤ですよ) 葱いろの春の水に 楊の花芽(ベムベロ)ももうぼやける…… いまこそおれはさびしくない たつたひとりで生きて行く こんなきままなたましひと たれがいつしよに行けようか 大びらにまつすぐに進んで それではいけないといふのなら 田舎ふうのダブルカラなど引き裂いてしまへ それからさきがあんまり青黒くなつてきたら…… そんなさきまでかんがへないでいい ちからいつぱい口笛を吹け みちがぐんぐんうしろから湧き 過ぎて来た方へたたんで行く むら気な四本の桜も 記憶のやうにとほざかる たのしい地球の気圏の春だ みんなうたつたりはしつたり はねあがつたりするがいい |
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( 2019.11.03 藤井宏行 )