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Loreley   Op.135-3  
  Symphony no. 14
ローレライ  
     交響曲第14番「死者の歌」

詩: アポリネール (Guillaume Apollinaire,1880-1918) フランス
    Alcools  La Loreley

曲: ショスタコーヴィチ (Dimitry Shostakovich,1906-1975) ロシア   歌詞言語: ドイツ語


Zu der blonden Hexe kamen Männer in Scharen
Die vor Liebe zu ihr fast wahnsinnig waren
Es befahl der Bischof sie vor sein Gericht
Doch bewog ihn zur Gnade ihre Schönheit so licht
Loreley deine Augen die so viele gerühret
Welcher Zauber hat sie nur zum Bösen verführet
Laßt mich sterben Herr Bischof verdammt ist mein Blick
Wer mich nur angeschauet kann nimmer zurück
Meine Augen Herr Bischof sind schreckliche Flammen
Laßt mich brennen am Pfahl denn ihr müßt mich verdammen
Loreley wie soll ich dich zerdammen wenn mein Herz
Für dich steht in Flammen heile du meinen Schmerz
Weiter Herr Bischof laßt Euch nicht von mir rühren
Denn Gott hat Euch bestimmt mich zum Tode zuführen
Fort von hier zog mein Liebster hat sich von mir gewandt
Ist von dannen geritten in ein anderes Land
Seither trauert mein Herze darum muß ich verderben
Wenn ich nur in mein Antlitz seh möchte ich sterben
Fort von hier zog mein Liebster nun ist alles so leer
Sinnlos ist diese Welt Nacht ist rings um mich her

Der Bischof läßt kommen drei Ritter Ihr Treuen
Bringt mir diese ins Kloster dort soll sie bereuen
Fort hinweg Loreley falsche Zauberin du
Wirst als Nonne nun finden im Gebet deine Ruh
Mühsam sieht man sie dort einen Felsweg beschreiten
Und sie spricht zu den Männern die ernst sie bepleiten
Auf der Höhe des Felsens will ich einmal noch stehn
Und das Schloß meines Liebsten von ferne nur sehn
Und sein Spiegelbild laßt mich zum letzten Male betrauern
Danach könnt ihr mich bringen in Klostermauern
Und ihr Haar fliegt im Winde seltsam leuchtet ihr Blick
Und es rufen die Ritter Loreley zurück
Auf dem Rheine tief drunten kommt ein Schifflein geschwommen

Drinnen steht mein Geliebter und er winkt ich soll kommen
O wie leicht wird mein Herz komm Geliebter mein
Tiefer lehnt sie sich über und stürzt in den Rhein
Und ich sah sie im Strome so ruhig und klar
Ihre rheinfarbnen Augen ihr sonniges Haar

ブロンドの髪の魔女のもとへと男たちは押し寄せ
彼女への愛のために狂ったようになった
司祭が彼女を呼び出し裁こうとしたが
あまりの美しさに最初から赦してしまわれた
ローレライよ そなたの瞳は宝石の輝き
いかなる魔法がかようにお前を悪に誘惑したのか
死なせてください司教様 私の瞳は呪われています
私をひとめ見た男は二度と戻ってくることはできません
私の瞳は司教様 恐ろしい炎です
どうか私を杭で火炙りとし私を滅ぼしてください
ローレライよ どうしてお前を裁くことができよう 我が心が
お前のために炎と燃え上がって我が痛みを癒すというのに
司教様これ以上私をかき乱さないでください
そうすれば神様が死へと私を導いてくださるのです
私の恋人はここを去って行ってしまい私は捨てられました
他国へと行ってしまったのです
私の心はそのときから悲しみにくれ私は駄目になりました
私のこの姿を見るにつけ私は死にたくなります
私の恋人はここを去って行ってしまいすべては空虚なのです
この世は無意味で 私のまわりは夜の闇です

司教様は3人の忠実な騎士を呼び
罪を悔いるため私を修道院へと連れて行かせた
さあ行くがよいローレライよ 汝悪い魔女よ
尼となって祈りの中から救いを見つけるのだ
険しい岩山の道を苦しそうに彼らが進むのが見えるだろう
そこでローレライは男たちに話しかけた 真摯な願いを
あの高い岩山の上に今一度立ちたいと
そしていなくなった私の恋人のお城を見たいと
水面に映ったその姿を最後に
そのあとに私は修道院の壁の中に入りましょう
彼女の髪は風になびき 瞳は不思議に輝く
騎士たちは叫ぶ ローレライ戻れと
ライン川のあのはるか彼方から小舟がやってくる

そこには愛しい人が乗っていて私を呼んでいる
おお何と軽やかなこの心
彼女は身を乗り出しそしてラインへと落ちていった
そして今も私はこの穏やかに澄んだ流れの中に見る
ラインの流れの色をしたこの瞳そしてこの輝く髪を


この楽章は事情が少々複雑です。ショスタコーヴィチの原語版ではドイツ語で歌われているのですが、その下敷きとなっているのはギョーム・アポリネールの書いたフランス語の詩(「ラ・サンテ監獄」などと同じく詩集「アルコール」より)で、この詩のドイツ語訳(訳者は突き止められませんでした)が使われているのです。
ではなぜアポリネールのものそのままでなくドイツ語版が使われているかといえば、それはこの物語自体が、さらに一昔前のドイツの詩人、クレメンス・ブレンターノ(1778-1842:クラシック音楽やドイツ文学の愛好者には「子供の不思議な角笛」の編纂者として有名でしょうか)の手になる話を下敷きにしているからです。ライン川の船人を惑わすという魔女ローレライ伝説はハイネによって書かれ、日本でもジルヒャーの曲によってよく歌われた詩「なじかは知らねど心わびて」によってもよく知られたところでしょうが、ブレンターノはこの魔女ローレライがどのようにして生まれたかについての歌物語をハイネよりも前の1801年に小説「ゴドウィGodwi」の中で書いているのです。
というわけでブレンターノとアポリネール、両者は当然別の詩なのですが、自分の意思とは関わりなく男を惑わす美女ローレライ、司教による宗教裁判と修道院行きの命令、隙を見てラインに身を投げる乙女、と話の展開は全く一緒です。それもあってか一部の解説ではこの第3楽章の歌詞をブレンターノ作としているものもありましたがさすがにこれは言い過ぎでしょう。

結構長い詩で訳すのも大変なのですが、こちらにこのブレンターノの詩を翻訳してみたものも置いておきます(ほんとに即席ですので誤訳など多々あるかと思いますがご容赦ください。誤りはご指摘いただけると大変助かります)ので、このアポリネールのものと比べてみてください。またアポリネールの方も原詩からではなく、ショスタコーヴィチがテキストに使っているこのドイツ語詩から訳しましたので、こちらもフランス語のものとは若干内容が違っています。ご了承を。ほんとはアポリネールの原詩の方が出来は良いとは思うのでこちらも訳すべきなのですが、交響曲の原語版で使われているのはドイツ語でもあることですし、またブレンターノの訳詩で力尽きてしまいましたのでフランス語からの訳の方は失礼させて頂きます。変な話ですが、ロシア語訳は恐らくアポリネールのフランス語詩からなされ、またドイツ語詩もフランス語詩よりなされているので、両者の内容の違いは他の楽章よりも翻訳を介する数が1回多いだけにかなり大きいものがあるようです。
またローレライが私になったり彼女になったりと呼び方がころころ変わるのもドイツ語詞でそうなっているので、分かりにくいとは思いながらもそのまま訳してみました。特に最後のich sahは引っかかるところですが(アポリネールの原詩でもロシア語訳でも見るのはローレライ自身)、ここでは第3者たる詩人がこの髪や瞳をラインの流れに見ているようにも取れるようにしました。

第2楽章のマラゲーニャが、鞭の一打ちで終わったあと、そのまま切れ目なくこのローレライの物語が始まります。司教様の言葉に当たる部分はバリトンが、そしてローレライの言葉にはソプラノが(他の部分のト書きは主にソプラノが)歌います。「死へと私を導いてくださるのです(zum Tode zuführen)」のあとでしばらく激しい弦のパッセージの間奏が入り、またローレライと3人の騎士が出発するところではまるで馬がギャロップで駆けるようなウッドブロックをはじめとする打楽器を交えた小気味良いリズムが響きます。そしてローレライが岩山に昇り、騎士たちが「ローレライ 戻れ(Loreley zurück)」と叫んだ直後に鐘がふたつ鳴り、音楽の流れがぷつっと断ち切られます。この鐘はローレライが死を決意したことを表すのでしょう。水に飛び込むところはバリトンによって語られますが、もはやそれは静かに、消え入るように歌われてドラマを形作ることはありません。
そして静かに次の楽章「自殺」へと移っていきます。

私はロシア語は耳で聴いてもピンとくるほど堪能ではありませんが、ドイツ語はなんとなく聞き取れます。それでやはりドイツ語で歌われるユリア・ヴァラディとディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウの掛け合いが大変面白く聴けました。ここはやはり耳で意味が取れると面白さが2倍にも3倍にもなります。確かに元がロシア語に付けられた曲なだけにちょっとイントネーションやリズムなどに無理があるのは確かですけれども...

( 2006.09.23 藤井宏行 )


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