Loreley Op.135-3 Symphony no. 14 |
ローレライ 交響曲第14番「死者の歌」 |
Zu der blonden Hexe kamen Männer in Scharen Die vor Liebe zu ihr fast wahnsinnig waren Es befahl der Bischof sie vor sein Gericht Doch bewog ihn zur Gnade ihre Schönheit so licht Loreley deine Augen die so viele gerühret Welcher Zauber hat sie nur zum Bösen verführet Laßt mich sterben Herr Bischof verdammt ist mein Blick Wer mich nur angeschauet kann nimmer zurück Meine Augen Herr Bischof sind schreckliche Flammen Laßt mich brennen am Pfahl denn ihr müßt mich verdammen Loreley wie soll ich dich zerdammen wenn mein Herz Für dich steht in Flammen heile du meinen Schmerz Weiter Herr Bischof laßt Euch nicht von mir rühren Denn Gott hat Euch bestimmt mich zum Tode zuführen Fort von hier zog mein Liebster hat sich von mir gewandt Ist von dannen geritten in ein anderes Land Seither trauert mein Herze darum muß ich verderben Wenn ich nur in mein Antlitz seh möchte ich sterben Fort von hier zog mein Liebster nun ist alles so leer Sinnlos ist diese Welt Nacht ist rings um mich her Der Bischof läßt kommen drei Ritter Ihr Treuen Bringt mir diese ins Kloster dort soll sie bereuen Fort hinweg Loreley falsche Zauberin du Wirst als Nonne nun finden im Gebet deine Ruh Mühsam sieht man sie dort einen Felsweg beschreiten Und sie spricht zu den Männern die ernst sie bepleiten Auf der Höhe des Felsens will ich einmal noch stehn Und das Schloß meines Liebsten von ferne nur sehn Und sein Spiegelbild laßt mich zum letzten Male betrauern Danach könnt ihr mich bringen in Klostermauern Und ihr Haar fliegt im Winde seltsam leuchtet ihr Blick Und es rufen die Ritter Loreley zurück Auf dem Rheine tief drunten kommt ein Schifflein geschwommen Drinnen steht mein Geliebter und er winkt ich soll kommen O wie leicht wird mein Herz komm Geliebter mein Tiefer lehnt sie sich über und stürzt in den Rhein Und ich sah sie im Strome so ruhig und klar Ihre rheinfarbnen Augen ihr sonniges Haar |
ブロンドの髪の魔女のもとへと男たちは押し寄せ 彼女への愛のために狂ったようになった 司祭が彼女を呼び出し裁こうとしたが あまりの美しさに最初から赦してしまわれた ローレライよ そなたの瞳は宝石の輝き いかなる魔法がかようにお前を悪に誘惑したのか 死なせてください司教様 私の瞳は呪われています 私をひとめ見た男は二度と戻ってくることはできません 私の瞳は司教様 恐ろしい炎です どうか私を杭で火炙りとし私を滅ぼしてください ローレライよ どうしてお前を裁くことができよう 我が心が お前のために炎と燃え上がって我が痛みを癒すというのに 司教様これ以上私をかき乱さないでください そうすれば神様が死へと私を導いてくださるのです 私の恋人はここを去って行ってしまい私は捨てられました 他国へと行ってしまったのです 私の心はそのときから悲しみにくれ私は駄目になりました 私のこの姿を見るにつけ私は死にたくなります 私の恋人はここを去って行ってしまいすべては空虚なのです この世は無意味で 私のまわりは夜の闇です 司教様は3人の忠実な騎士を呼び 罪を悔いるため私を修道院へと連れて行かせた さあ行くがよいローレライよ 汝悪い魔女よ 尼となって祈りの中から救いを見つけるのだ 険しい岩山の道を苦しそうに彼らが進むのが見えるだろう そこでローレライは男たちに話しかけた 真摯な願いを あの高い岩山の上に今一度立ちたいと そしていなくなった私の恋人のお城を見たいと 水面に映ったその姿を最後に そのあとに私は修道院の壁の中に入りましょう 彼女の髪は風になびき 瞳は不思議に輝く 騎士たちは叫ぶ ローレライ戻れと ライン川のあのはるか彼方から小舟がやってくる そこには愛しい人が乗っていて私を呼んでいる おお何と軽やかなこの心 彼女は身を乗り出しそしてラインへと落ちていった そして今も私はこの穏やかに澄んだ流れの中に見る ラインの流れの色をしたこの瞳そしてこの輝く髪を |
この楽章は事情が少々複雑です。ショスタコーヴィチの原語版ではドイツ語で歌われているのですが、その下敷きとなっているのはギョーム・アポリネールの書いたフランス語の詩(「ラ・サンテ監獄」などと同じく詩集「アルコール」より)で、この詩のドイツ語訳(訳者は突き止められませんでした)が使われているのです。
ではなぜアポリネールのものそのままでなくドイツ語版が使われているかといえば、それはこの物語自体が、さらに一昔前のドイツの詩人、クレメンス・ブレンターノ(1778-1842:クラシック音楽やドイツ文学の愛好者には「子供の不思議な角笛」の編纂者として有名でしょうか)の手になる話を下敷きにしているからです。ライン川の船人を惑わすという魔女ローレライ伝説はハイネによって書かれ、日本でもジルヒャーの曲によってよく歌われた詩「なじかは知らねど心わびて」によってもよく知られたところでしょうが、ブレンターノはこの魔女ローレライがどのようにして生まれたかについての歌物語をハイネよりも前の1801年に小説「ゴドウィGodwi」の中で書いているのです。
というわけでブレンターノとアポリネール、両者は当然別の詩なのですが、自分の意思とは関わりなく男を惑わす美女ローレライ、司教による宗教裁判と修道院行きの命令、隙を見てラインに身を投げる乙女、と話の展開は全く一緒です。それもあってか一部の解説ではこの第3楽章の歌詞をブレンターノ作としているものもありましたがさすがにこれは言い過ぎでしょう。
結構長い詩で訳すのも大変なのですが、こちらにこのブレンターノの詩を翻訳してみたものも置いておきます(ほんとに即席ですので誤訳など多々あるかと思いますがご容赦ください。誤りはご指摘いただけると大変助かります)ので、このアポリネールのものと比べてみてください。またアポリネールの方も原詩からではなく、ショスタコーヴィチがテキストに使っているこのドイツ語詩から訳しましたので、こちらもフランス語のものとは若干内容が違っています。ご了承を。ほんとはアポリネールの原詩の方が出来は良いとは思うのでこちらも訳すべきなのですが、交響曲の原語版で使われているのはドイツ語でもあることですし、またブレンターノの訳詩で力尽きてしまいましたのでフランス語からの訳の方は失礼させて頂きます。変な話ですが、ロシア語訳は恐らくアポリネールのフランス語詩からなされ、またドイツ語詩もフランス語詩よりなされているので、両者の内容の違いは他の楽章よりも翻訳を介する数が1回多いだけにかなり大きいものがあるようです。
またローレライが私になったり彼女になったりと呼び方がころころ変わるのもドイツ語詞でそうなっているので、分かりにくいとは思いながらもそのまま訳してみました。特に最後のich sahは引っかかるところですが(アポリネールの原詩でもロシア語訳でも見るのはローレライ自身)、ここでは第3者たる詩人がこの髪や瞳をラインの流れに見ているようにも取れるようにしました。
第2楽章のマラゲーニャが、鞭の一打ちで終わったあと、そのまま切れ目なくこのローレライの物語が始まります。司教様の言葉に当たる部分はバリトンが、そしてローレライの言葉にはソプラノが(他の部分のト書きは主にソプラノが)歌います。「死へと私を導いてくださるのです(zum Tode zuführen)」のあとでしばらく激しい弦のパッセージの間奏が入り、またローレライと3人の騎士が出発するところではまるで馬がギャロップで駆けるようなウッドブロックをはじめとする打楽器を交えた小気味良いリズムが響きます。そしてローレライが岩山に昇り、騎士たちが「ローレライ 戻れ(Loreley zurück)」と叫んだ直後に鐘がふたつ鳴り、音楽の流れがぷつっと断ち切られます。この鐘はローレライが死を決意したことを表すのでしょう。水に飛び込むところはバリトンによって語られますが、もはやそれは静かに、消え入るように歌われてドラマを形作ることはありません。
そして静かに次の楽章「自殺」へと移っていきます。
私はロシア語は耳で聴いてもピンとくるほど堪能ではありませんが、ドイツ語はなんとなく聞き取れます。それでやはりドイツ語で歌われるユリア・ヴァラディとディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウの掛け合いが大変面白く聴けました。ここはやはり耳で意味が取れると面白さが2倍にも3倍にもなります。確かに元がロシア語に付けられた曲なだけにちょっとイントネーションやリズムなどに無理があるのは確かですけれども...
( 2006.09.23 藤井宏行 )