夢見たものは |
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夢見たものは ひとつの幸福(しあわせ) ねがつたものは ひとつの愛 山なみのあちらにも しづかな村がある 明るい日曜日の 青い空がある 日傘をさした 田舎の娘らが 着かざつて 唄をうたつてゐる 大きなまるい輪をかいて 田舎の娘らが 踊りををどつてゐる 告げて うたつてゐるのは 青い翼の一羽の 小鳥 低い枝で うたつてゐる 夢見たものは ひとつの愛 ねがつたものは ひとつの幸福 それらはすべてここに ある と |
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若き日のフランス留学仕込みの洗練された洋風の音楽が持ち味で、クラシックだけでなくポピュラー音楽の分野でも活躍されていた高木東六氏が先日102歳の大往生を遂げられました。100歳になってもコーラスの指導など音楽に関わる仕事を続けられていたとのこと。その情熱には頭が下がる思いです。
さて、私は彼の音楽をそれほどたくさん聴いているわけではなく、また比較的聴ける機会の多いポピュラー系の作品の中にはその代表作とされる「水色のワルツ」をはじめとしてあまり好きな曲はありません。
また彼の持論であった日本の伝統音楽や演歌などが劣ったものであるかのような考え方には納得できないものはあるのですが、いくつかの作品に関してはその見事さにやはり感服せざるを得ませんでした。そのひとつがこの曲、詩人の立原道造の詩自体がなんというか日本人離れした感傷的な美しさが持ち味ですから、高木の日本っぽさの感じられない音楽に絶妙にはまって、非常に美しい歌ができあがりました。「日本歌曲」の傑作か、といわれるとちょっと違うような気もしますが、この歌を初めて耳にしたときには震えがきたのを思い出します。
そのCDが米良美一さんのカウンターテナー、男性が女性的な声を出しているのもこの曲の美しさに寄与しているのでしょうか。忘れがたい録音です。鮫島有美子さんの録音もあってこれも素敵ですが、やはり私には最初に聴いたインパクトを超えるものにはなりませんでした。
この詩は詩集「優しき歌U」より最後10番目の詩です。立原の詩の中でも人気が高く、非常に多数の作曲家によって歌にされているようです。そのすべてを耳にしたわけではありませんが、この高木の作品はその中でも指折りの傑作であるのは間違いないでしょう。それとどうでも良いことですが今回驚かされたのは、立原の方が高木東六より10歳も年下であったということです。夭折さえしなければこの詩人ももっと私たちに身近だったのかも知れませんね。もっともTVのバラエティ番組とかに出ている老齢の立原道造、なんて姿はあんまり見たくないですけれども...
( 2006.08.26 藤井宏行 )