TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ


Mel'nik    
 
粉屋  
    

詩: プーシキン (Aleksandr Sergeyevich Pushkin,1799-1837) ロシア
      Воротился ночью мельник (1835)

曲: ダルゴムイシスキー (Alexander Sergeyevich Dargomyzhsky,1813-1869) ロシア   歌詞言語: ロシア語


Vozvratilsja noch’ju mel’nik...
“Zhenka! CHto za sapogi?”
“Akh ty,p’janitsa,bezdel’nik!
Gde ty vidish’ sapogi?
Il’ mutit tebja lukavyj?
Eto vedra! Vedra? Pravo? “
“Vot uzh sorok let zhivu,
Ni vo sne,ni najavu
Ne vidal do etikh por
Ja na vedrakh mednykh shpor!“

粉屋が夜中に帰ってきて言うことにゃ
「ジェンカ!この長靴はなんだ!」
「また酔っ払って、このごく潰し!
 どこに長靴なんてあるんだい?
 悪魔にでもとっちめられてんのかい?
 これはバケツだよ!バケツ!しっかりおし!」
「俺は40年生きてきたが
 夢の中でさえもうつつでも
 いまだかつて見たことないぞ
 銅の拍車のついたバケツなんか!」


ダルゴムイシスキーの歌曲の中では比較的知られた作品です。ユーモラスな音楽とチグハグな会話、何だか意味がよく分からないのはもともとこれが小説の中に使われた詩であるためでしょうか。
プーシキンが1835年に書いた未完の小説(戯曲か?)Stseny iz Rytsarskikh Vremen(「騎士時代からの場面」と訳されるようです)の最後の場面、騎士になりたかった商人の放蕩息子フランツがいろいろあった末に騎士たちの囚われの身となり、彼らの宴席の座の余興で歌う歌がこれです。この「粉屋」の前に「貧しき騎士の歌」という別の余興の歌が歌われているのですが、「いい歌だけど座がしらける、もっと楽しいのはないのか」という要求に応じて歌ったのがこの歌だということのようです。長靴なら馬に乗る時のためにかかとに小さな輪っか(拍車)が付いていますが、バケツにはない。ただバケツと訳しはしましたが、別のもっと長靴の形に近い桶のようなものではないか、という感じもしています。

比較的知られた、とは言いながらあまり聴ける音盤はないのがロシア歌曲の宿命でしょうか。この曲はもっぱらバス・バリトンのレパートリーなのですが、私が聴いたことがあるのもプルチュラーゼ(Decca)とサヴェンコ(Hyperion)の2枚のみ。両方とも少々真面目すぎるでしょうか。酔っ払いオヤジとそのカミサンのわけの分からん会話、もうちょっと遊び心一杯で歌われるととても面白いと思うのですが。

( 2006.08.14 藤井宏行 )


TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ