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Les Ingénus   L 104  
  Fêtes Galantes I
うぶな野郎ども  
     艶なる宴U

詩: ヴェルレーヌ (Paul Verlaine,1844-1896) フランス
    Fêtes galantes 7 Les ingénus

曲: ドビュッシー (Claude Achille Debussy,1862-1918) フランス   歌詞言語: フランス語


Les hauts talons luttaient avec les longues jupes,
En sorte que,selon le terrain et le vent,
Parfois luisaient des bas de jambes,
Trop souvent interceptés!
Et nous aimions ce jeu de dupes.

Parfois aussi le dard d'un insecte jaloux
Inquiétait le col des belles sous les branches,
Et c'étaient des éclairs soudains des nuques blanches,
Et ce regal comblait nos jeunes veux de fous.

Le soir tombait,un soir equivoque d'automne:
Les belles se pendant reveuses à nos bras,
Dirent alors des mots si spéciaux,tout bas,
Que notre âme depuis ce temps tremble et s'étonne.


ハイヒールがロングスカートともつれあっていた
それで、地面の具合や風によっては
時々、ふくらはぎの白いところがちらりと見えたんだ
すぐ見えなくなっちゃったけどね!
ぼくらはこんな馬鹿げたゲームが好きだった

ときには、やきもち焼きの虫の針が
木の下の可愛いコたちの襟元を狙ってくることもあった
そんな時、首筋の白さが一瞬だけ輝く
ぼくら馬鹿どもの目を楽します瞬間だ

日が暮れて、秋のおぼろな夕闇に
可愛いコたちが夢見心地でぼくらの腕にもたれかかり
そして思わせぶりな言葉をささやく
そのときからぼくらの心は震え、ときめき続けてる


最近の男の子はこんなふくらはぎや首筋程度じゃ全然ダメで、下着まで見えないとこういう気分にはなれないみたいですが、それでもこの詩の中の150年近く前の少年たちと全く考えることは変わっていないのですね。原詩をじっくりと読み解いてみるとそんなことにも気付かされてたいへん面白かったです。ロングスカートで行くことはないですけれども、イメージとしては中学校の夏休み林間学校でのひとコマといった趣でしょうか。最後の部分なんかはキャンプファイアを囲んでのフォークダンスのシーンみたいですね...
確かに”Ingenus”には「無邪気な」という意味が辞書にありますから、この詩のタイトルを一部の邦訳にあるように「無邪気な人々」と訳しても間違いではないですけれども、どう見てもここにいるのは邪気の塊のような連中ですので、ここではちょっと遊ばせてもらって「うぶな野郎ども」としてみました。ヴェルレーヌファンの方、怒らないで下さいね。ほんとはもっとオタクっぽく「萌〜なやつら」とかしようかと思ったのを我慢したのですから...
そういう皮肉っぽさをじんわりと滲みだすこの曲のドビュッシーのピアノ伴奏、とても面白いです。この「艶なる宴」の第2集は音だけ聴く分には第1集ほどの強いインパクトは受けないのですが、こうやって詩もじっくり読み込みながら聴くとドビュッシーの仕掛けた遊びがそこかしこにあってとても興味深い歌曲集です。第一集の作曲との間に10年のギャップ(出版された年はあまり違わないようですが)があるということで、音楽から受ける印象もだいぶ違うものになりました。

ジャンヌ・バトリやマジー・テイトといった女性歌手(私はなぜかこの「艶なる宴U」に関しては昔の人の演奏しか聴いたことがありません)も、フィガロの結婚のケルビーノみたいに性に目覚めた若い男の子の感じが出て面白いのですが、それよりもEMIの全集にあるジェラール・スゼーのバリトンの方がこの煩悩がうまく表現されているようで私には楽しく聴けました。あんまり性差を強調すると怒られそうですけれども、やはりこの詩の持っている感覚で男でないと実感できないようなところが厳然としてあるのかな、などと彼の歌を聴きながら妄想にふけってしまいました。皆さんはいかがお感じですか?

( 2006.08.09 藤井宏行 )


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