夜の風 木下夕爾の三つの歌 |
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誰かが麦笛をならしてゐる それは人が泣いてゐるやうだ 夜が風をつれてくる しなやかな皮膚をした 小さな風よ 僕の著物からは はやくナフタリンの匂ひが失はれる 僕は感じる 暗い夜のなかで 熟れた小麦がそよいでゐるのを ああ六月がそこに横臥して ゆるい死の息づかひをしてゐるのを |
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( 2019.08.28 藤井宏行 )