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Auf Flügeln des Gesanges   Op.34-2  
  6 Gesänge
歌の翼に  
     6つの歌

詩: ハイネ (Heinrich Heine,1797-1856) ドイツ
    Buch der Lieder - Lyrisches Intermezzo(歌の本-抒情小曲集 1827) 9 Auf Flügeln des Gesanges

曲: メンデルスゾーン (Jakob Ludwig Felix Mendelssohn,1809-1847) ドイツ   歌詞言語: ドイツ語


Auf Flügeln des Gesanges,
Herzliebchen,trag ich dich fort,
Fort nach den Fluren des Ganges,
Dort weiß ich den schönsten Ort;

Dort liegt ein rotblühender Garten
Im stillen Mondenschein,
Die Lotosblumen erwarten
Ihr trautes Schwesterlein.

Die Veilchen kichern und kosen,
Und schaun nach den Sternen empor,
Heimlich erzählen die Rosen
Sich duftende Märchen ins Ohr.

Es hüpfen herbei und lauschen
Die frommen,klugen Gazelln,
Und in der Ferne rauschen
Des heilgen Stromes Well'n.

Dort wollen wir niedersinken
Unter dem Palmenbaum,
Und Liebe und Ruhe trinken,
Und träumen seligen Traum.

歌の翼に乗せて
心の恋人よ、ぼくは君を連れて飛び立とう
はるかに遠いガンジスの岸辺へと
そこは素晴らしいところなんだ

そこには真っ赤な花の咲く庭があって
ひそやかな月の光に照らされている
たくさんの蓮の花たちが待っているのさ
彼らの親しい妹がやってくるのを

スミレは微笑みながら愛撫し合い
そして空の星を見上げる
バラはひそやかに語り合う
彼らのかぐわしいメルヘンを耳元で

そこへ跳ねてきて聞き耳を立てるのは
従順で賢いガゼルたち
そして遠くでさざめくのは
聖なるあの大河のさざ波だ

そこでふたりで寝そべるんだ
椰子の木の下で
そして愛とやすらぎを飲みほして
幸せな夢を見ようよ


メンデルスゾーンの歌曲の中では一番良く知られているものであるに留まらず、様々な器楽伴奏に編曲されて歌曲を聴かれない人にも広く聴かれ、愛されている作品でしょう。
大銀行家の倅に生まれ、何不自由なく育ったと言われるメンデルスゾーンですが、伝記などを読んでみると実はユダヤ人差別の真っ只中でけっこう辛い思いもしてきたようです。
人種差別もさることながら何より当時は音楽家自体のステータスがそんなに高くなく、今でいえば飲み屋で流しの演歌歌手を入れて慰みもので歌わせているような感覚が王侯貴族の間ではあったようなので、そんなところも感受性の鋭い天才の彼には耐え難いところがあったのでしょうか。彼も音楽家の地位向上のためにかなりの政治的な努力もしており、そんな苦労が命を縮めるひとつの原因だったのではないか?と思ったりもしてしまいます。ですからこのような繊細で美しいメロディの中にもどこか翳りがふっと見えて、このハイネの詩にしてはえらくストレートな幸福感溢れるものに付けた曲でも、聴いていてなんだか切なくなります。
現世の様々な辛いことから逃れてひとときの幻想に浸る...インドのガンジス川の情景を借りていますが、ここで歌われているのはどこにもない桃源郷の姿です。

フィッシャー・ディースカウのメンデルスゾーン歌曲集(EMI)が廉価で、しかも解説や対訳が充実して国内盤で再発されました。私もフランツさんのブログで知って買い求め、その翳りのある美しい音楽を堪能したのですが、ちょっとメンデルスゾーンの音楽とフィッシャー・ディースカウの歌との間には違和感を感じなくもありませんでした。
また溜息が出るほど美しいソプラノのバーバラ・ボニーの歌(Teldec)も、この曲のこの世から遠く離れた別世界を描くという意味では最高なのですが、あまりに美しすぎて作曲者の悲しみ、というのがちょっと弱まってしまったように思います(ないものねだりなのでしょうが)
この「歌の翼」、私が今まで聴いた中でもっとも素晴らしいと思ったのはペーター・シュライヤーのテノール(Berlin Classic)、彼のリリカルな歌声はこのどこにもない幸福の国の情景を本当に美しくももの悲しく描いてくれていると思いました。メンデルスゾーンの歌曲集としては個人的にはこれがベストです。

( 2006.08.04 藤井宏行 )


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