Spleen L 60 Ariettes Oubliees |
憂鬱(Spleen) 忘れられた小唄 |
Les roses étaient toutes rouges, Et les lierres étaient tout noirs. Chère,pour peu que tu te bouges, Renaissent tous mes désespoirs. Le ciel était trop bleu,trop tendre, La mer trop verte et l'air trop doux. Je crains toujours _ ce qu'est d'attendre! _ Quelque fuite atroce de vous. Du houx à la feuille vernie Et du luisant buis,je suis las, Et de la campagne infinie, Et de tout,fors de vous,hélas! |
まわりのバラはみな赤く まわりのツタはみな黒かった 恋人よ、お前がちょっとでも動くだけで ぼくの昔の絶望がみな甦ってくる 空はあまりにも青く、そして穏やか 海は碧く、そして風は優しいのに ぼくはいつも恐れてる、待つってこういうことなのか! つれないきみがいつかいなくなってしまうことを つややかに光る葉っぱのヒイラギにも 輝くツゲの木にもぼくは飽きてしまった そしてこの果てしない野原にも 何もかも飽きた、きみ以外には ああ! |
フォーレのヴェルレーヌに付けた歌曲「Spleen(憂鬱)」が「巷に雨の降る如く」の詩で、ドビュッシーの「Spleen」はそれでなくこの詩だ、とややこしいことになっていますが、実際にヴェルレーヌがSpleenという題を付けたのはこちらの方の詩です。だいたいフォーレという人は曲のイメージや響きに合わないと詩の方にどんどん手を加えますし、題名なんかを変えてしまうのも平気でやってしまっているようですが、ドビュッシーは詩に手を入れることはほとんどなく、ありのままの姿を歌にすることが多い、というところも興味深い対比です。この詩、「愛して愛して愛しちゃったのよ」ってな感じで恋人にやつあたりしています。自分ではコントロールできないこの感情がまさに「Spleen(憂鬱)」というのにぴったりではないでしょうか。曲もそんなに激しくはないのですが、ぶつけようのない怒りがふつふつとたぎっています。最後の「何もかも飽きた、きみ以外には」のところでちょっとだけ感情が爆発しますが、またすぐに静かに「ああ」と溜息をつきます。歌手の方も表現が難しいのでしょうね。なかなかこれは!という演奏にはまだ私はお目にかかっておりません。
( 2006.07.17 藤井宏行 )