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Auf dem See   Op.3-5  
  5 Lieder
湖上にて  
     5つの歌曲

詩: ゲーテ (Johann Wolfgang von Goethe,1749-1832) ドイツ
      Auf dem See (1775)

曲: ヴォルフ (Hugo Wolf,1860-1903) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Und frische Nahrung,neues Blut
[Saug' ich aus freier Welt;]
Wie ist Natur so hold und gut,
Die mich am Busen hält!
Die Welle wieget unsern Kahn
Im Rudertakt hinauf,
Und Berge,wolkig himmelan,
Begegnen unserm Lauf.

Aug',mein Aug',was sinkst du nieder?
Goldne Träume,kommt ihr wieder?
Weg,du Traum! so hold du bist;
Hier auch Lieb' und Leben ist.

Auf der Welle blinken
Tausend schwebende Sterne,
Weiche Nebel trinken
Rings die türmende Ferne;
Morgenwind umflügelt
Die beschattete Bucht,
Und im See bespiegelt
Sich die reifende Frucht.

そして、新鮮な糧と新しい血潮を、
[私は自由な世界から吸収する。]
なんといとおしく、素晴らしいのだろう、
私を胸に包み込んでくれる自然というのは!
波は我らの小舟を揺り上げる、
櫂のリズムに合わせて。
そして、雲のかかった山々は天高く聳え、
我らの行く手に立ちはだかる。

目よ、我が目よ、何を沈んでいるのだ?
金の夢よ、またお前達なのか?
夢よ、消え失せろ!どれほどいとおしくとも。
ここにも愛と生はあるのだ。

波の上に漂うのは、
幾千もの星々の輝き。
柔らかい霧があたりに立ち込め、
遠方に聳え立つものを飲み込んでいく。
朝風は
日陰の入江を掠める。
そして、湖には
実った穀物が姿を写す。


「Op. 3」とタイトルページに記されたヴォルフの14枚の楽譜帳の最後に置かれているのが、ゲーテの詩による「湖上にて」である(1875年8月以前作曲)。
この曲は自筆譜のタイトルの右横に鉛筆で”Op. 4 No2 (Chor)”と付け加えられているが、「さすらいの歌」同様にこの曲も独唱曲を作った後に合唱曲に編曲したものと見られ、その合唱曲に対して”Op. 4 No. 2”という番号を与えているらしいが、アルト声部しか現存せず、編曲が完成されたのかどうかも不明である。
この独唱曲は完成された曲とみなされているが、自筆譜を見てみると、第1節第2行の歌詞が入る筈の歌声部が空白のままになっており、休符もなく、ピアノパートのみが書かれているので、厳密に言うとこの箇所のみ未完成である(全集楽譜では何故かそのことに触れられておらず、休符が付け加えられている)。
ヴォルフはゲーテの原詩の第2節第3行の”so Gold du bist”を”so hold du bist”と変更しているが、意図的なのか写し間違いなのかは分からない。
ゲーテは1775年にスイスに旅したが、その途中ツューリヒ湖上で6月15日に作った詩に手を加えて出版したのがこの詩である。ゲーテのスイス旅行は恋人リリ・シェーネマンとの恋の痛手を癒すためのものであったが、その事件が第2節に影を落としていると言われる。
ヴォルフの曲はOp. 3の中ではじめての通作形式による曲であるが、各節の行と韻律を考えれば有節形式が無理なことは明白であり、ヴォルフにとって挑戦だったであろう。
曲想の移り変わりは以下の通り。
前奏・第1節:Allegro moderato、4分の4拍子、イ長調
第2節:Adagio、4分の3拍子、ヘ長調
第3節前半:テンポ標示なし、4分の4拍子、イ長調
間奏・第3節後半:Presto、4分の4拍子、イ長調
テンポ、拍子、調のいずれも第2節を際立たせているのが分かる。
曲は概してさわやかに進行し、後年のように詩句の意味を強調したり、朗誦の要素を取り入れたりすることはまだないが、韻律の忠実な再現を実現しているということは言えるだろう。歌いにくい高音が多く、未熟さを含んでいるが、彼のその後の初期作品にしばしば見られることになる音節の装飾的な処理(メリスマ)がすでに見られる。
この曲も今のところ録音がないものと思われるが、2004年10月26日、浜離宮朝日ホールにおける釜洞祐子(S)松川儒(P)の演奏は、作品に息を吹き込み、作品がもっている以上の魅力を引き出してくれたと思う。
なお、同じ詩によるシューベルトの名作(D. 543)がある。

( 2006.07.15 フランツ・ペーター )


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