Andres Maienlied [Hexenlied] Op.8-8 12 Gesänge |
もう一つの五月の歌(魔女の歌) 12の歌 |
Die Schwalbe fliegt, Der Frühling siegt Und spendet uns Blumen zum Kranze; Bald huschen wir Leis aus der Tür Und fliegen zum prächtigen Tanze. Ein schwarzer Bock, Ein Besenstock, Die Ofengabel,der Wocken Reißt uns geschwind, Wie Blitz und Wind, Durch sausende Lüfte zum Brocken! Um Beelzebub Tanzt unser Trupp Und küßt ihm die kralligen Hände! Ein Geisterschwarm Faßt uns beim Arm Und schwinget im Tanzen die Brände! Und Beelzebub Verheißt dem Trupp Der Tanzenden Gaben auf Gaben: Sie sollen schön In Seide gehn Und Töpfe voll Goldes sich graben. Ein Feuerdrach Umflieget das Dach Und bringet uns Butter und Eier. Die Nachbarn dann sehn Die Funken wehn, Und schlagen ein Kreuz vor dem Feuer. Die Schwalbe fliegt, Der Frühling siegt, Die Blumen erblühen zum Kranze. Bald huschen wir Leis aus der Tür, Juchheisa zum prächtigen Tanze! |
つばめは飛び、 春は勝ち誇って ワタシタチに花冠のための花々を与えてくれる。 もうすぐワタシタチはさっと 音を忍ばせ戸を飛び出して、 華やいだ舞踏会へ飛んで行くのさ。 黒い雄山羊に ほうき棒、 火かきに、糸巻き竿が ワタシタチを素早くさらって行くのよ、 稲妻や疾風のごとく、 ごうごう唸る空中を通って、ブロッケン山へね! ベルゼブブのまわりを ワタシタチの一団が踊って、 鉤爪のある彼の両手にキスするんだ! 霊の群れは ワタシタチの腕をつかんで 踊りながら炎を揺らすのさ! それからベルゼブブは 踊った一団に 次々とプレゼントを約束する。 シルクを着て 美しくなるがよいとか、 金のいっぱい入った壺を掘り出しなさいとか言われるのさ。 火の竜が 屋根の上を飛び、 ワタシタチにバターや卵を持ってきてくれる。 そうすると近所の人たちは 火花が吹き渡るのを見て 火の前で十字を切るのよ。 つばめは飛び、 春は勝ち誇って 花々は花冠のために咲いてくれる。 もうすぐワタシタチはさっと 音を忍ばせ戸を飛び出すのさ、 ヤッホー、いざ華やいだ舞踏会へ。 |
メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn-Bartholdy : 1809. 2. 3-1847. 11. 4)は、明朗で気品に満ちた作風で知られる作曲家だが、歌曲については「歌の翼に」のみが有名で、ほかはあまり歌われたり、聴かれたりしない。シューマンのような込み入った情感表出があったり、ブラームスのような堅牢な構造が際立っているわけではないのだが、彼特有の安定して心地よい作風は歌曲においても健在で、もっと評価されてしかるべきと思わずにいられない。とにかくストレートに共感できる美しい作品が山のようにあるのだ。
そんな彼の歌曲中、最もドラマティックで楽しい作品がこの「もう一つの五月の歌(別名:魔女の歌)」Op. 8-8である。「もう一つの五月の歌」の由来は、Op. 8-7が「五月の歌(Maienlied)」(詩人はヘルティではなく、Jacob von der Warte)なので、それに続いて「もう一つ(andres)」ということなのだろう。随分前にアーウィン・ゲイジが公開講座を開いた時、この「もう一つ」というのは人間社会ではない「魔女の世界の」五月を意味していると言っていた。それも充分説得力のある見方だと思う。
春が来て、ブロッケン山の舞踏会に行ける日を心待ちにする魔女の歌である。「ベルゼブブ」は旧約聖書の異教神に由来し、ヘブライ語で「ハエの王」を意味し、それが詩の第3節の「鉤爪」の描写につながっている。悪魔の意味合いで使用される名前のようだ。第3節最後の「踊りながら炎を揺らす」というのは火の玉がゆらゆら揺れている描写だろうか。
Allegro vivace、8分の6拍子、ト短調。轟くトレモロと急速な分散和音が別世界の魑魅魍魎たちの描写をおどろおどろしく描く。歌は1点ニ音から2点変ロ音まで2オクターヴ弱の広さの音域を早口で語らなければならない。2節ずつをひとまとめにしたA-A-A’の変形有節形式だが、A’はピアノパートの描写も段階的に盛り上げていき、歌は” Juchheisa “(歓呼の叫び)で最高潮に達する。「火の竜」が登場するくだりではバス音に素早い唸りが聞かれるが、炎を吐いている様だろうか。pとfがたえず入れ替わり、物語を彩り豊かに演出している。ト短調の劇的な後奏が最後に長和音で終わるのが聴き手に衝撃を与える。
シュトライヒ&パーソンズ、アーメリング&ヤンセン、ボニー&パーソンズ、グルベローヴァ&ハイダー、J.ベイカー&パーソンズなどの録音はいずれもそれぞれの個性で楽しく聴かせてくれるが、普段は女声用の歌をあまり歌わないシュライアー(オルベルツとエンゲル共演の2種類)とF=ディースカウ&サヴァリシュが驚くほど巧みな語りで楽しませてくれる。これこそ名人芸だろう。上述のピアニストたちも歌手同様名人芸をたっぷり披露している。
( 2006.07.15 フランツ・ペーター )