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Chevaux de bois   L 60  
  Ariettes Oubliees
木馬  
     忘れられた小唄

詩: ヴェルレーヌ (Paul Verlaine,1844-1896) フランス
    Sagesse - Sagesse III 17 Tournez,tournez,bons chevaux de bois

曲: ドビュッシー (Claude Achille Debussy,1862-1918) フランス   歌詞言語: フランス語


Tournez,tournez,bons chevaux de bois,
Tournez cent tours,tournez mille tours;
Tournez souvent et tournez toujours,
Tournez,tournez au son des hautbois.

L'enfant tout rouge et la mère blanche」,
Le gars en noir et la fille en rose,
L'une à la chose et l'autre à la pose,
Chacun se paie un sou de dimanche.

Tournez,tournez,chevaux de leur cœur,
Tandis qu'autour de tous vos tournois
Clignote l'œil du filou sournois,
Tournez au son du piston vainqueur.

C'est étonnant comme ça vous soûle
D'aller ainsi dans ce cirque bête:
Rien dans le ventre et mal dans la tête,
Du mal en masse et du bien en foule.

Tournez,dadas,sans qu'il soit besoin
D'user jamais de nuls éperons
Pour commander à vos galops ronds,
Tournez,tournez,sans espoir de foin.

Et dépéchez,chevaux de leur âme:
Déja voici que sonne à la soupe
La nuit qui tombe et chasse la troupe
De gais buveurs que leur soif affame.

Tournez,tournez! Le ciel en velours
D'astres en or se vêt lentement.
L'église tinte un glas tristement.
Tournez au son joyeux des tambours.

まわれ まわれ、素敵な木馬、
まわれ100回、まわれ1000回、
ちょくちょくまわれ ずうっとまわれ、
まわれ、まわれ、オーボエの音に合わせて

子供たちは真っ赤な顔、お母さんは蒼ざめてる
黒い服の男の子に、ピンクの服の女の子
しがみつく子もいりゃ、澄ましてる子もいる
みんな日曜のお小遣いを使って楽しんでる

まわれ、まわれ、心の木馬、
君らが回っているあいだ
ずるいスリの目がにらんでる
まわれ、勝ち誇ったコルネットの音に合わせて!

こいつぁびっくりするほどの乗り心地!
馬鹿みたいにぐるぐる回るだけなのに
おなかはからっぽ、頭は痛い、
いやなことも多いが、楽しいこともたくさん

まわれ、ハイドー、走らせるすべがなくても
拍車なんぞは使わなくても
命じられるまま、速足で
まわれ、まわれ、エサのあてはないけれど。

それから急げ、魂の木馬、
もう、晩ごはんの時間が来た
夜が来たなら団体がくるぞ
喉がからからの陽気な酒飲み共だ

まわれ、まわれ! ビロードの空は
ゆっくりと金色の星を身にまとう
教会の鐘が悲しく鳴る
まわれよ陽気な太鼓にあわせ、まわれ!


ヴェルレーヌの詩集「ベルギー風景」の一節にある詩として普通は紹介されていますが、詩集によく載っているものとはこの歌詞、若干詩句が違っています。これは版が違うためで「ベルギー風景」でなくもう少し後に編まれた詩集「叡知(Sagesse)」に改作されて載せられたものをテキストとして取ったためのようです。
本によく載ってる「ベルギー風景」の方の版ではふとった兵隊さんとでぶの女中さん、このふたりのユニークな恋人のデートの情景になっていて、木馬への呼びかけも「ふたりの心の木馬」であったり「ふたりの魂の木馬」であったりするのですけれども、ドビュッシーの歌になっている方の詩はもう少し色々な人たちが次々出てきて木馬のまわりをにぎやかに行き過ぎていきますので、この音楽のあでやかな彩りにぴったりです。これはベルギーの首都ブリュッセルの郊外、サン・ジルに立つ市場の中にある遊具の木馬のことを描いているのだそうですが、昼間の子供たちの乗っている様子(一緒に乗っているお母さんが蒼ざめているのが微笑ましいです。子供ほどは楽しくないんでしょうねえ)と、夜になって酔っ払い親父どもの集団がやってきて(彼らも木馬に乗るつもりなんでしょうか?)一騒ぎある情景と、昼間と夜との対照が面白いです。

最初のピアノは木馬が回り始める前の振動でしょうか。短い音がいくつか叩かれてから勢い良く木馬が回りだすかのような流麗な歌が始まります。
「Toriz(まわれ)」がある節はこの流麗なメロディで、それ以外の節は語るような旋律なのでその対照もまた興味深いところです。バーバラ・ヘンドリックスやフレデリカ・フォン・シュターデのようにこの語りの部分をヴェルカントではなくて地声に近い声で喋るように歌っている人もいて、これまた鮮烈な印象を与えてくれます。
最後は流麗な主旋律がゆっくりとなって、夜の眠りに誘うように終わるところもなかなかの味わい。
ドビュッシーの音楽の作り方って、一歩踏み外すとものすごく陳腐になりそうなギリギリのところで微妙に踏みとどまるところに大変な魅力があるように思いますが、これもそんな見事な演出に満ちたドビュッシーの傑作といえましょう。

フランスの歌手ももちろんいろんな人が録音しているのですが、私がこの曲で気に入っているのは上述のヘンドリックス、フォン・シュターデにあとドーン・アップショウといったところの歌。くしくも3人ともアメリカ出身の女性歌手です。フランス語に堪能な方には彼女たちの歌は発音が気に食わなかったりするみたいですが、私はどうせフランス語の微妙な響きは聞き取れゃしませんし、彼女たちの素敵な表情付けを楽しむ方がずっと楽しいです。とにかくブロードウエイミュージカルみたいな曲の味わいがドビュッシーのハーモニーと溶け合って大変に面白いのです。

( 2006.07.08 藤井宏行 )


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