Roses of Picardy |
ピカルディのバラ |
She is watching by the poplars, Colinette with the sea-blue eyes; She is watching and longing and waiting Where the long white roadway lies. And a song stirs in the silence, As the wind in the boughs above, She listens and starts and trembles, 'Tis the first little song of love: Roses are shining in Picardy In the hush of the silver dew; Roses are flow'ring in Picardy, But there's never a rose like you! And the roses will die with the summertime, And our roads may be far apart, But there's one rose that dies not in Picardy! 'Tis the rose that I keep in my heart! And the years fly on forever, Till the shadows veil their skies, But he loves to hold her little hands, And look in her sea-blue eyes. And she sees the road by the poplars, Where they met in the bygone years, For the first little song of the roses Is the last little song she hears: Roses are shining in Picardy In the hush of the silver dew; Roses are flow'ring in Picardy, But there's never a rose like you! And the roses will die with the summertime, And our roads may be far apart, But there's one rose that dies not in Picardy! 'Tis the rose that I keep in my heart! |
ポプラの木のそばであの娘は見ている 海のように青い眼の娘、名はコリネット あの娘は見つめ、焦がれ、待っている 長く続く白い道のかなたを 静けさの中から歌が聴こえてくる 頭上の枝をそよぐ風のように あの娘はそれを聴き震え出す それは初めての愛の歌だから ピカルディのバラは輝く 銀色の露の静けさの中で ピカルディのバラは花開く でもあなたのようなバラはひとつもない! 夏にはバラは枯れるだろう 僕たちの道も別々になる でもたったひとつ枯れないバラがある 僕の心の中に咲くバラだ! 月日は飛ぶように過ぎていく 空を暗闇が覆い隠すまで でも彼はあの娘の手を握るのが好きで そして青い目を見つめるのが好きだ あの娘はポプラのそばに立っている 遠い昔に二人で逢ったその場所に バラを歌った初めての歌は あの娘の聴く最後の歌だ ピカルディのバラは輝く 銀色の露の静けさの中で ピカルディのバラは花開く でもあなたのようなバラはひとつもない! 夏にはバラは枯れるだろう 僕たちの道も別々になる でもたったひとつ枯れないバラがある 僕の心の中に咲くバラだ! |
ピカルディといえばフランス北部・ドーバー海峡に面した一地域ですし、この曲はティノ・ロッシやイブ・モンタンといったシャンソン歌手も愛唱していることからフランスの歌だと思われている方も多いようです。あるいはフランク・シナトラなんかの録音もありますのでジャズ・スタンダードと思っている方もおられるかも。実はこの曲結構古く1916年の出版、作曲したのはケテルビーなどと並んで知られるイギリスのライトクラシックミュージックの世界では代表的な作曲家のひとりハイデン・ウッド(1882-1959)です。
音楽好きの両親が、名前にロンドンで活躍した大作曲家ハイドンの名前をつけたことに影響されてか彼もまた作曲家になったわけですが、恐らく今の世にもっとも知られている彼の音楽はこの曲でしょう。
恋をなくしたちょっと物悲しい冒頭のメロディがやがて陶酔的に美しいサビの「ピカルディのバラは輝く」に至るところは溜息もので、今でもジャンルを超えて広く愛唱されているのも頷ける名曲だと思います。作詞のフレデリック・ウェザリー (Frederick E. Weatherly 1848-1929) は法律家の傍ら当時の流行家の作詞家として活躍していたのだそうで、あのイタリアの大歌曲作家トスティが曲を付けたものもありますし、実は彼の作詞したもので恐らく現在でも非常に有名な曲としてはあの「ロンドンデリーの歌(ダニーボーイ)」があります。
確かにこうして訳していても、流行歌としてヒットするツボを良く心得た人だなあ、と感心するような見事な言葉の使い方。私には歌謡曲の詞をつくる才能はないですけれども、精一杯真似して言葉を選んでみました。
美しい詞とメロディなのですが実はこの曲、第一次世界大戦と切っても切れない関係にある悲しい歌でもあります。出版の年からもお分かりのようにちょうど作曲はこの大戦の最中、そしてフランスに送られたイギリスの兵士たちはこの歌を愛唱していたのだと言います。そもそも作詞のウェザリーがこの詞を書いたのも、あるフランスの戦争未亡人とのひとときのロマンスがこの年にあったのがきっかけだ、といいます。ちょうど90年前の1916年7月、このバラの盛りの季節は連合軍の反攻が始まったソンムの戦いでたくさんの戦争未亡人たちが生まれたときでもあったのです。この歌は決して悲しみに浸っているわけではないのですけれども、そんな別れを歌っているのだということを知ると聴いていてもとても切なくなってしまいます。
シナトラやモンタンの歌うこの曲も良いのですが、やはり創唱者のテナー、ジョン・マコーマックの流れを汲むやわらかなハイ・テナーの歌うこの曲に私は最も味わいを感じます。もちろんマコーマックのSP録音復刻も残っていますし、これまた伝説の歌手リチャード・タウバーのSP復刻もあります。新しいところではアメリカ出身のロバート・ホワイトがこの時代に限らずイギリスのこんなクラシックとポップスのクロスオーバーな曲をたくさんまとめて録音しているHyperion盤(Bird Songs at Eventide)がとても美しいアルバムでした。
ポップス系では最近聴くことのできた往年のシャンソン歌手ティノ・ロッシの歌うこの歌がやはりやわらかなテナー系の歌声でとても気に入りました。
確かにフランス語の歌詞で聴くと昔のシャンソンと思っても不思議ではない味わいも出てきてすごく面白いです。
( 2006.06.30 藤井宏行 )