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Der Sommer    
 
夏  
    

詩: ヘルダーリン (Johann Christian Friedrich Hölderlin,1770-1843) ドイツ
    Gedichte 1806-1843  Der Sommer

曲: リゲティ (Gyorgy Ligeti ,1923-2006) ハンガリー→オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Noch ist die Zeit des jahrs zu sehn,und die Gefilde
Des Sommers stehn in ihrem Glanz,in ihrer Milde;
Des Feldes Grün ist prächtig ausgebreitet,
Allwo der Bach hinab mit Wellen gleitet.

So zieht der Tag hinaus druch Berg und Tale,
Mit seiner Unaufhaltsamkeit und seinem Strahle,
Und Wolken ziehn in Ruh,in hohen Räumen,
Es scheint das jahr mit Herrlichkeit zu säumen.

一年中でもなお見るに値するこの時期、広野は
夏の輝きと穏やかさに包まれ
緑の野原がきらびやかに広がっている
そして小川はさざなみを立てながら流れゆく

一日は広がる、山や谷に
休むこともなく、そして輝きながら
また雲は安らかに漂う、この広い空に
まるで一年のこの時期の栄光を飾っているかのように


先日亡くなったハンガリー出身のオーストリアの作曲家ジェルジ・リゲティにはけっこう興味深い声楽作品がいろいろとあります。最も良く知られたものとしてはキューブリックの映画「2001年宇宙の旅」でも使われた3人の歌手とアンサンブルのための「アヴァンチュール」(1962)がありますが、他にも似たような雰囲気の「レクイエム」(1963-65)や、同じく声のアンサンブルによってルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」の一節などをユーモラスに、しかし現代音楽の鮮烈さも生かして歌わせているのが大変に面白い「ナンセンス・マドリガルズ」(1988-93)などが知られているかと思いますが、そんな彼になぜかドイツの自然派詩人、ヘルダーリンの詩に付けたソロとピアノのための歌曲がありました。
しかもこれが初期の習作とかでなく作曲が1989年とリゲティが多数の大作を既に書いたあとの作品です。リゲティらしいなあといった強烈さ(と難解さ)はあまりないのですが、ピアノ伴奏の研ぎ澄まされた響きや甘ったるさのない歌の旋律などけっこう深みのある作品だと思います。
作曲者自身があまり気に入っていない、という噂のあるSonyのリゲティ・エディションの第4巻、まだハンガリーを亡命する前の習作から彼の代表作まで幅広く声楽作品を集めているものの中にソプラノのエルツェの歌、カタエヴァのピアノで収録されていました。近現代の歌曲ならこの人、という感のあるクリスティーナ・エルツェですから演奏は悪かろうはずはありません。あとは音楽と聴き手との相性の問題かと。

ヘルダーリンという詩人は私はあまりなじみがないので(ここで私が取り上げたのも初めてです。甲斐さんはよく取り上げられていますけれども)、この日本語訳もあまりうまく行っていないような気もしますが、20世紀の大作曲家のひとりをこのサイトでも追悼すべくあえて取り上げさせていただくこととしました。下手な翻訳ひらにご容赦のほど。

( 2006.06.14 藤井宏行 )


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