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La fuite    
 
かけおち  
    

詩: ゴーティエ (Théophile Gautier,1811-1872) フランス
    Poésies diverses,poésies nouvelles et inédites,poésies posthumes - Poésies diverses 1838-1845  La fuite (1845)

曲: デュパルク (Eugène Marie Henri Fouques Duparc,1848-1933) フランス   歌詞言語: フランス語


Au firmament sans étoile
La lune éteint ses rayons ;
La nuit nous prête son voile ;
Fuyons ! fuyons !

  Ne crains-tu pas la colère
  De tes frères insolents,
  Le désespoir de ton père,
  De ton père aux sourcils blancs ?

Que m'importent mépris,blâme,
Dangers,malédictions !
C'est dans toi que vit mon âme.
Fuyons ! fuyons !

  Le coeur me manque ; je tremble,
  Et,dans mon sein traversé,
  De leur kandjar il me semble
  Sentir le contact glacé !

Née au désert,ma cavale
Sur les blés,dans les sillons,
Volerait,des vents rivale.
Fuyons ! fuyons !

  Au désert infranchissable,
  Sans parasol pour jeter
  Un peu d'ombre sur le sable,
  Sans tente pour m'abriter...

Mes cils te feront de l'ombre ;
Et,la nuit,nous dormirons
Sous mes cheveux,tente sombre.
Fuyons ! fuyons !

  Si le mirage illusoire
  Nous cachait le vrai chemin,
  Sans vivres,sans eau pour boire,
  Tous deux nous mourrions demain.

Sous le bonheur mon cœur ploie ;
Si l'eau manque aux stations,
Bois les larmes de ma joie.
Fuyons ! fuyons !

星ひとつない空の下
月も光を消してくれたわ
夜はあたしたちにヴェールを与えてくれたのだから
さあ行きましょう、行きましょう

  怒られることが怖くないの?
  わかってくれない兄さんたちに
  お父さんの悲しみはどうするんだい?
  眉の白くなった父さんの

あざけりや、辱めや
危害や、呪いを気にするかですって?
あたしの心の中にあるのはあなただけ
さあ行きましょう、行きましょう

  心はためらっている、震えてる
  胸に突き刺さるみたいだ
  彼らの持つ短剣が
  まるで氷に触れているようだ

砂漠へいきましょうよ、ねえあなた
麦畑を越え、野原を抜けて
風と競争しながら 飛ぶように
さあ行きましょう、行きましょう

  砂漠は果てしないし
  パラソルがないじゃないか
  砂の上に日陰を作ってくれる傘が
  それに私たちを守るテントもない

あなたを見つめるあたしのまつ毛が陰を作るわ
そして夜は、夜は眠るの
あたしの長い髪の毛の下で、黒いテントよ
さあ行きましょう、行きましょう

  もしも蜃気楼が
  ぼくたちの行く道を隠したなら
  食べ物も、飲み水もなく
  ぼくたち、明日にも死んでしまうじゃない

幸せにあふれてあたしの心は弾む
もし行く先に水がなかったなら
あたしの嬉し涙を飲めばいいわ
さあ行きましょう、行きましょう


駆け落ち(逃避行)のことを語り合う男女の会話、初め私は音楽を聴かずに歌詞だけ見て訳しましたので、それから音楽を聴いてびっくりしました。これって駆け落ちに誘っているのは女性の方だったのですね。あわてて台詞の言葉遣いの書き直しをする羽目になりました。まだまだジェンダー(性的役割)のステレオタイプに発想が深く縛られている私です...
デュパルクの曲も、そういうわけで男女掛け合いのデュエット曲でしたが、しかし頼りない男ですなあ。そしてえらく押しの強力な女性ですなあ(いかんまたステレオタイプの発想で見ている...)音楽はそんなにインパクトのあるものではないのですが、そういう意味で非常に印象深い曲になりました。
ゴーティエの原詩では2人に名前がついていて、女性はKadidja、男性はAhmedなんだそうです。名前の響きといい砂漠が出てくるところといい、ペルシャかアラブの物語でしょうね。邦題では「逃亡」や「逃走」という題になっていることが多いようですが、詞の内容を見ても「駆け落ち」の方が適切なように思えたので私はこちらを採用しました。

最近になって出ているデュパルクの歌曲全集でないとなかなか取り上げられているのに出会えることはありません。私が聴いたことがあるのはNaxosのもの。男声はポール・グローヴス、女声はエミリー・プリーです。他を聴いていませんので何ともいえないのですが、この曲なりのインパクトはあって面白いです。プリーの声はけっこう私には好ましかったので、彼女の「戦いの起こった国へ」や「ミニョンのロマンス」も聴いてみたい気はするのですが、これら2曲は残念ながらこのCDには収録されていませんでした。15曲の収録で厳密な意味では歌曲全集でないのですが、1000円そこそこで入手できますし、ちょっと聴いてみようかという分には十分過ぎる演奏だと思います。

( 2006.05.07 藤井宏行 )


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