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Le disparu   FP 134  
 
いなくなった人   
    

詩: デスノス (Robert Pierre Desnos,1900-1945) フランス
    Destinée arbitraire  Couplets de la rue Saint-Martin

曲: プーランク (Francis Poulenc,1899-1963) フランス   歌詞言語: フランス語


Je n'aime plus la rue Saint-Martin
Depuis qu'André Platard l'a quittée.
Je n'aime plus la rue Saint-Martin,
Je n'aime rien,pas même le vin.

Je n'aime plus la rue Saint-Martin
Depuis qu'André Platard l'a quittée.
C'est mon ami,c'est mon copain.
Nous partagions la chambre et le pain.
Je n'aime plus la rue Saint-Martin.

C'est mon ami,c'est mon copain.
Il a disparu un matin,
Ils l'ont emmené,on ne sait plus rien.
On ne l'a plus revu dans la rue Saint-Martin.

Pas la peine d'implorer les saints,
Saints Merri,Jaques,Gervais et Martin,
Pas même Valérien,qui se cache sur la colline.1
Le temps passe,on ne sait rien,
André Platard a quitté la rue St Martin.

ぼくはもうサン・マルタン通りは好きじゃない
アンドレ・プランタールがいなくなってしまってからは
ぼくはもうサン・マルタン通りは好きじゃない
好きなものがもうないんだ、ワインでさえも

ぼくはもうサン・マルタン通りは好きじゃない
アンドレ・プランタールがいなくなってからは
ぼくの友達で、ぼくの仲間だった彼
ぼくらは部屋やパンを分け合っていた

ぼくはもうサン・マルタン通りは好きじゃない
ぼくの友達で、ぼくの仲間だった彼が
ある朝いなくなってしまったんだ
やつらが連れ去っていき、その後のことは誰も知らない
それから誰もサン・マルタン通りで彼を見ない

聖人さまたちに祈っても無駄なことさ
聖メリーに聖ジャック、聖ジェルべにマルタンも
丘に隠れ住むヴァレリアンにさえも

時は流れ、何もわからない
アンドレ・プランタールはサン・マルタン通りから消えた


第二次世界大戦中、ドイツ軍に対するレジスタンス活動を行い、収容所の中で死んだシュールレアリスト詩人ロベール・デスノス(Robert Desnos,1900-1945)の書いた抵抗詩に、大戦後間もない1946年にプーランクが付けた歌です。詩で書かれている「やつら」というのは言うまでもなくドイツ軍のことでしょう。
詩に歌われたアンドレ・プランタールだけでなく、このロベール・デスノスもまた戦争のさなかに「いなくなって」しまいました。プーランクの書いた音楽も彼に対する追悼であるかのような哀惜に満ちたもの。シャンソン風、という評がありますが日本人の好きなクラーい系のシャンソンのイメージは確かにあります。昔は私はご紹介したような歌詞の背景は知りませんでしたし、クラーい系のシャンソンは概して好きでなかったのであまり興味を惹かれた歌でもなかったのですが、改めてプーランクと第二次世界大戦との関わりを調べていく中でこの曲の意味の重さに気付かされました。

この曲には作曲者自身のピアノ伴奏に、プーランク歌曲解釈の第一人者としてならしたピエール・ベルナックの録音があります。まさに先の戦争を身を持って体験した人たちの紡ぎ出す反戦歌(鎮魂歌)。じっくりと味わってみる価値はあるのではないでしょうか。

( 2006.05.03 藤井宏行 )


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