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Dans les ruines d'une abbaye   Op.2  
  Deux mélodies
ある修道院の跡で  
     2つのメロディ

詩: ユゴー (Vicomte Victor Marie Hugo,1802-1885) フランス
    Les Chansons des rues et des bois - 1. Livre premier : Jeunesse - 6. L'Eternel petit roman 15 Dans les ruines d'une abbaye

曲: フォーレ (Gabriel Fauré,1845-1924) フランス   歌詞言語: フランス語


Seuls,tous deux,ravis,chantants,
Comme on s'aime;
Comme on cueille le printemps
Que Dieu sème.

Quels rires étincelants
Dans ces ombres,
Jadis pleines de fronts blancs,
De coeurs sombres.

On est tout frais mariés,
On s'envoie
Les charmants cris variés
De la joie!

Frais échos mèlés
Au vent qui frissonne.
Gaîté que le noir couvent
Assaisonne.


Seuls,tous deux,ravis,chantants,
Comme on s'aime;
Comme on cueille le printemps
Que Dieu sème.

Quels rires étincelants
Dans ces ombres,
Jadis pleines de fronts blancs,
De coeurs sombres.

On effeuille des jasmins
Sur la pierre.
Où l'abbesse joint les mains,
En prière.

On se cherche,on se poursuit,
On sent croître
Ton aube,Amour,dans la nuit
Du vieux cloître.

On s'en va se becquetant,
On s'adôre,
On s'embrasse à chaque instant,
Puis encore,

Sous les piliers,les arceaux,
Et les marbres,
C'est l'histoire des oiseaux
Dans les arbres.


ふたりだけで幸せ一杯に歌いながら
互いに愛し合い
この素晴らしい春の時を摘み取っているの
神様の蒔いてくれた季節を

笑い声が弾けるわ
この真っ暗な闇の中でも
昔ここには青ざめた顔の人や
沈んだ心の人ばかりがいたのだけれど

ふたりは結婚したばかり
互いに投げかけ合ってるのは
魅力あふれる愛のささやき
喜びに彩られたささやき!

さわやかなこだまも溶けていく
そよそよそよぐ風の中へと
この暗い修道院の中でさえ
喜びは高まっていくのです


ふたりだけで幸せ一杯に歌いながら
互いに愛し合い
この素晴らしい春の時を摘み取っているの
神様の蒔いてくれた季節を

笑い声が弾けるわ
この真っ暗な闇の中でも
昔ここには青ざめた顔の人や
沈んだ心の人ばかりがいたのだけれど

ふたりでジャスミンの花を摘むの
石の上に生えている花を
昔そこでは修道女さまが
手を合わせてお祈りしていたところ

それからふたりでかくれんぼ
だんだん感じてくるでしょう
愛よ、あなたの夜明けがくるのが
この古い回廊の夜の中にいても

くちづけしあい
愛し合い
それからずっと抱き合うの
何回も 何回も

柱の下でも、丸屋根でも
大理石の彫像の下でも
だってこれは鳥たちのお話だもの
木の上にいる鳥たちのお話

「ある僧院の廃墟で」という邦題名であることが多いこの作品ですが、それだとこの詩のイメージは湧きませんよね。なんかもっとおどろおどろしいホラーか、もしくは「昔の光いまいずこ」的な感傷を期待してしまいそうです。そこで私は廃墟という言葉をやめて「ある修道院の跡で(正しい漢字では「址」を使うべきなようですが)」としました。
しかしまあ...つぶれているとはいえ修道院という神聖な場所でなんと大胆にいちゃつくバチ当りカップルどもなんだ、と呆れながら詩を読んでいくと、最後に可愛らしい種明かしがありますね。有名な小説「レ・ミゼラブル」や「ノートル・ ダム・ド・パリ」の作者であるだけでなく、膨大な数の詩をも書いたロマン派詩人ヴィクトール・ユゴーの面目躍如たる詩ではないでしょうか。彼の1865年の詩集「街と森の歌(Les Chansons des rues et des bois)」の第1部第6章(L'Eternel petit roman)に収められた詩です。20冊もあると言われるユゴーの詩集も多くは長編の叙事詩がほとんどを占め、このような短い愛らしい抒情詩は主にこの詩集にのみ収められているといいます。

原詩を載せるつもりだったのですが、フォーレがかなりいじっていますので歌との対応が分かりにくくなりそうなのでフランス語の方も含めてフォーレの使ったものにあわせました。ユゴーのオリジナルとの大きな違いとしては2回目の「笑い声が弾けるわ」の部分の繰り返しが原詩にはなく、代わりに「ふたりでジャスミンの」の節と「それからふたりでかくれんぼ」の間にもう1節あるのをフォーレは省略しています。この改変でメロディを単純に繰り返す有節歌曲風のスタイルにすることができました。一応省略された部分を以下に記しておきます。

  Les tombeaux,de croix marqués,
  Font partie
  De ces jeux,un peu piqués
  Par l'ortie.

    十字架が刻まれているお墓のところも
    遊び場の一部よ
    かれらのいちゃつき合いの、ちょっと痛いけど
    イラクサのトゲが

あといくつかフォーレが詩中の言葉を変えているようですがこの解説は省略させて頂きます。また女性の独り語りのように訳したのはフォーレの音楽を聴きながらその印象で訳したためで、原詩がそういうニュアンスか?というと自信はありません。

興味深いのは、世代的なこともあるのでしょうがこのユゴーの詩にフォーレが曲を付けているのはもっぱらごく初期の作品に限られることです。確かにこんな感じのロマン詩はフォーレの中期以降の音楽スタイルには濃密過ぎて似合わないように思えるので当然の選択といえばいえないこともないのですが、では初期の作品がどうかといえば、非常にこんな感じの詩のスタイルにはまっていて素敵でした。確かにフォーレの歌曲というよりはビゼーやグノー、ラロなどの歌曲作品に近い味わいでそんなに強い個性は感じないのですが、逆に耳に優しい、可愛らしいメロディが大変に印象的。「蝶と花」「愛の夢」などと並んで珠玉の小品としてもっと愛されても良いように思います。グノーの歌曲などを聴いているとそのドイツリートとの近さに驚かされることがしばしばありますが、この曲などもフランス語で歌われなければシューマンの曲といっても通用しそうですね。

歌曲全集でのアメリンクの爽やかな歌声も大変良かったのですが、今回改めて聴いて良さが分かったのがメゾソプラノのフレデリカ・フォン・シュターデが歌ったもの。美しさの中にもしっとりとした情感があってとても素敵でした。彼女の入れたフォーレの歌曲集の録音、比較的こんな初期の作品に比重を置いていますが、どれもとても見事な歌唱です。


( 2006.03.20 藤井宏行 )


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