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Le parfum impérissable   Op.76  
  Deux mélodies
消えない香り  
     2つのメロディ

詩: ルコント・ド=リル (Charles-Marie-René Leconte de Lisle,1818-1894) フランス
    Poèmes tragiques  Le parfum impérissable

曲: フォーレ (Gabriel Fauré,1845-1924) フランス   歌詞言語: フランス語


Quand la fleur du soleil,la rose de Lahor,
De son âme odorante a rempli goutte à goutte,
La fiole d'argile ou de cristal ou d'or,
Sur le sable qui brûle on peut l'épandre toute.

Les fleuves et la mer inonderaient en vain
Ce sanctuaire étroit qui la tint enfermée,
Il garde en se brisant son arôme divin
Et sa poussière heureuse en reste parfumée.

Puisque par la blessure ouverte de mon coeur
Tu t'écoules de même,ô céleste liqueur,
Inexprimable amour qui m'enflammais pour elle!

Qu'il lui soit pardonné que mon mal soit béni!
Par de là l'heure humaine et le temps infini
Mon coeur est embaumé d'une odeur immortelle!

太陽の花、ラオールのバラが
その魂の香りをひとしずく ひとしずく
陶器や、水晶や、黄金の瓶に満たしたとき
焼けた砂の上にそのすべてを注ぎかけることができる

川や海があふれ、おしよせてきても無駄だ
その香りを閉じ込めた聖域を侵すことはできない
たとえ瓶が砕けても その神々しい香りと
幸せの名残りは なお香り続けるのだ

私の心に開いた傷口からもそんなふうに
お前が流れ出すのだ おお、天上の液体よ
私を彼女に燃え上がらせた言葉に尽くせぬ恋よ

彼女に神の赦しがあることを、そして私のこの痛みが救われることを!
人の刻む時を超え、永遠を超えて
私の心は、消えない香りに満たされている


非常に難しい詩なので、私の訳では意味が十分に取れていないところもあるかと思うのですが、恋というものを永遠に消えざる香りに喩えている美しい詩です。これにフォーレが1897年に付けた曲は彼が後期作品へと舵を切り始めた頃ですから、やや晦渋な響きとなりました。
ぱっと聴くだけだと良さはピンとこないような気もしますが、フランス語の詩の内容とじっくりつき合わせて聴くと非常によくできた歌だということがわかるでしょう。詩の味わいと曲の雰囲気がうまく溶け合った傑作歌曲だと思います。

といいつつも渋すぎるのか録音は少なく、私が聴いたことがあるのも全集に収められたエリー・アメリンクのソプラノくらい。
これもいいのですどちらかというとこれは男声で聴きたい曲ですね。
パンゼラやモラーヌ、キュエノーといったフランスの名歌手たちにも録音があるようなので機会があれば聴いてみたいものです。

詩のラオールというのは恐らくムガール帝国の都のあった街、現在はパキスタン領の都市です。ルコント・ド・リール&フォーレのコンビはバラにちなんだ歌曲をスコットランドの「ネル」から始まってペルシャの「イスファハン」、ギリシャの「バラ」という具合にたくさん書いていますが、ついにインドまで来てしまいました。
時間をかけてゆっくり、ゆっくりと蓄えていった香りを一気にぶちまける、秘めた中で膨れ上がった恋を相手に思い切りぶつけるイメージでしょうか。
また2節目のpoussiere(埃・塵)の部分が意味がよく取れなかったので「名残り」としましたが、香りをぶちまけた砂を水が洗い流しても染み込んだ香りを砂(これがpoussiere)から取り去ることはできない、といった感じでしょうか?すごい粘着力です。

第3節では恋する心を流れ出す液体に喩えています。もちろんバラの香水の喩えで出てきたのでしょうが、liqueurという言葉には酒のイメージも感じました。恋に酔いしれる感じ。
あるいは次の行にあるように、心を燃え立たせるガソリンのようなイメージでしょうか。読み返すたびごとに別のイメージが沸いてきますので、これからもちょくちょくこの訳は改訂するような気がします。

( 2006.03.21 藤井宏行 )


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