Ditja,Kak cvetok ty prekrasna Op.8-2 Shest' romansov |
わが子よ お前は花のように美しく 6つのロマンス |
Ditja, kak cvetok ty prekrasna, Svetla, i chista, i mila. Smotrju na tebja, i ljubujus', I snova dusha ozhila... Okhotno b tebe na golovku Ja ruki svoji vozlozhil; Prosja chtoby Bog tebja vechno Prekrasnoj i chistoj khranil. |
わが子よ お前は花のように美しく 明るく 清らかで いとおしい お前を見つめ、愛でていると 私の魂はふたたびよみがえるようだ 喜びに満ちてお前の頭に 私の手をあててみたくなる 神様に願おう お前がずっと 美しく 清らかであり続けるようにと |
もともとはハイネの「君は花のよう Du bist wie eine blume」でしたから恋人の美しさを讃える詩であったのですが、これをロシアの詩人プレシチェーエフが訳したときに、Du(You ロシア語ではTyになるでしょうか)の代わりにDitja(Child/Baby)という言葉をあてたために詩全体が我が子をいとおしむ親の気持ちを歌ったようにも読めるものになりました。もちろん恋人のことを「かわいこちゃん」と(あるいは「ぼうや」とでも、いや昔のロックンローラーみたいに「ベイベェ」とでも)呼んでもよいですから、相変わらず恋人に寄せる詩と読めば読めないこともないのですが、私は子をいとおしむ歌のつもりで読み、そう訳してみました。
この可愛らしい詩には若きラフマニノフの夢見るような美しいメロディのついた歌曲(Op.8-2 1894)があります。この曲の雰囲気はどちらかというと恋人を讃えるロマンスという風情もなくはないのですが(確かに彼もまだ20代になったばかりですし、子を思う歌はピンと来なかったかも)、瑞々しいピアノの音と共に忘れ難い曲になりました。
最後は盛り上がるのでなく、しみじみと神様にお祈りするように終わるところなどは恋というよりは慈愛という感じもしますので、まあこの訳詞でご了承ください。
さて、私はそれなりにラフマニノフの歌曲集は保有していたつもりだったのですが、意外とこの歌が収録されているものは手元にありませんでした。
エリザベス・ゼーダーシュトレーム/アシュケナージ(Decca)の歌曲全集とイヴリン・リアー/ルドルフ・ヤンセン(VAI)の女声2種類しか結局見つからなかったのですが、Amazonとかを調べてみると、レイフェルクスやホロフトフスキーなど男声でも歌われる歌曲のようですね。
聴いた2枚では、私はイヴリン・リアー盤のひそやかな美しさの方に惹かれるものがありました。ゼーダーシュトレーム盤も雄弁で素晴らしいのですが、まるでオペラアリアのように響いてラフマニノフの繊細さがあまり聴き取れなくなってしまったように感じられるのです。曲によっては彼女のスタイルはツボにはまるのですが、こんな曲では少々大柄に過ぎるようです。リアーのラフマニノフは繊細可憐で、このロマンに満ちた美しい歌をしっとりと聴かせてくれています。
( 2006.02.27 藤井宏行 )