Kolybel'naja Op.79-3 Iz Jevrejskoj Narodnoj Po`ezii |
ゆりかご ユダヤの民族詩より |
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世界で一番可愛い私の坊や 暗闇の中のたったひとつの光よ お前のとうさんはシベリアで鎖に繋がれ 皇帝さまの牢屋に入れられているのよ お眠り、よし、よし、よし お前の揺りかごを揺すりながら かあさんは涙を流しているのよ お前も大きくなったら分かってくれるね この胸の焼けるような痛みを お前のとうさんは遠くシベリアで わたしはここで、ひとり苦しむ お眠り、何も気にすることなしに よし、よし、よし わたしの苦しみは夜より深いけれど お眠り、私は眠れないけれど お眠り、良い子、お眠り、坊や、お眠り よし、よし、よし |
ソヴィエトの政治に翻弄された彼ですが、交響曲のように公式の場で大々的に発表するのでない歌曲の世界では、驚くほど率直に自分の心境を吐露するような詩を選んで曲を付けています。横暴な権力に対する怒りやそれに翻弄される人々の悲しみ、そして粛清の恐怖...
私は彼の本当の心の内は、こんな歌曲や室内楽曲の方により色濃く現れているように思います。
この詩は、読めばどなたもスターリン独裁時代のシベリアの強制収容所のことを連想されると思います。彼の友人や知人も多くそこに送られ、そして二度と帰ってきませんでした。実際の初演のときもそういうわけでか、わざわざ「これはロシア帝国時代のことを歌ったものです」というアナウンスがあったとのことですが、確かにそれも納得できるような激しい詩ではあります。
この「民族詩」を作曲したのは1948年ということですからまだスターリンの存命中、しかもあの悪名高き党幹部ジダーノフによる作曲家総バッシングの真っ最中です。彼にとっては文字通り生命の危険すらあったわけですが、そこでこんな詩を取り上げてしまうショスタコーヴィチのミューズに対する率直さには敬服せずにはいられません。もっともそれもあってこの歌曲集の発表はスターリンの死を待たなければならなかったわけですが(1955初演)...
この曲はもちろん「ユダヤの民族詩」全曲の中でもメゾソプラノに歌われて非常に美しいのですが、なぜかこの曲だけ、Lullabyという子守歌を集めて録音しているアルバムの中に入れているカウンターテナーのスラヴァの歌が私にはとても心に残りました。他にもたくさん心優しい子守歌のメロディはあるのに何故?と思わなくもないですが、何かそこに裏があるのではなんて深読みするのではなく、そこで歌われた深い悲しみをじっくり味わうべきものなのでしょうね。ムソルグスキーのいろんな子守歌に繋がる傑作だと思います。
( 2006.02.16 藤井宏行 )